「本人が決めたことだ」
良太や工藤、それにいくつかの芸能プロダクションまで巻き込み、マスコミまで騒がせた張本人の鴻池は、ここのところおとなしくしているようだ。
鴻池がしたことを考えると今でも腹立たしいのだが、ことがわかってみれば訴えるほどの気力もおきない。
裁判沙汰にしたところで、良太をまた好奇の目に晒すくらいのものだ。
無論、鴻池がやったことは許せるものではないが、大企業であろうと、管理職などに甘んじるにはもったいないくらい、鴻池は未だに業界人間だ。
仕事はできるし、あの男はとにかくバカな遊びを考えるのが好きなのだ。
やりたかった仕事を父親に取り上げられた鴻池は、実在の社会を舞台に仕立て上げてシナリオを作るという遊びにはまってしまったらしい。
全く性質が悪い。
「良太くん、ドラマもやったんですよね? そっちも新人にしてはいいセンいってたって、ディレクターに聞きましたよ」
須永までが余計なことを口にする。
「バカ言え! あの程度のことでいいセンもクソもない! ヘタクソなシーンをほんの数カット撮るのに周りに迷惑かけ通しでやっと終わったんだ」
工藤にとっては思い出したくもない話だ。
しかしCMでの評価にも良太の存在感が顕著に表われている。
ましてや空中からでも獲物を的確に見つけ出す猛禽類のごとき鴻池のことだ、何らかの目算もなく良太を起用したとは考えにくい。
「まさか良太を人に見せたくないとか、思ってるんじゃないでしょうね?」
あまりに的を射たひとみの発言に、工藤は一瞬言葉に詰まる。
「本人が、プロデュースの仕事をやりたいって言ってるんだ」
あくまでも実は心の中で何を考えているかなどおくびにも出さず、工藤は言ってのけた。
あのCMのお陰で昔の彼女が会いにやってきたわけだ。
まあ、昔の女のことなんか、どうでもいいが。
いいはずなのだが――――――――――――
ほんとに焼けボックイに火でもつけられたら、良太なんか一発だろう。
CMに出ようが出まいが、遅かれ早かれそんな時が来るのはわかっていたことだ。
思いを強要しても無駄なことは、自分が言い寄られた経験上、嫌というほどわかっている。
工藤は過去の冷酷な所業をふと思い出し、苦笑いした。
「や~だ、思い出し笑いなんかして」
ひとみは既に出来上がりかけている。
「昔はバカなこともやったなって、お前も、俺も」
「オヤジくさ~い!! あたしは過ぎ去ったことなんかきれいさっぱり、なの! 今を生きなくてどうすんのよ」
今のことに体全体でのめり込むのが、ひとみの可愛いところだ。
男がのぼせるのもそんなひとみだからこそだろう。
「フン、それで、今の男とはどうなってるんだ?」
「そんなもんいたら、明日はイブなんだし、どっか二人きりで行ってるわよ」
「俺と飲んでる場合じゃないだろうな」
工藤はまたにやりと笑う。
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