「いや、基本は、先生が亭主、つまりホスト側で、よばれる方はお客さんってことで、初めに床の間の拝見とか道具の拝見とかして席入りして、新年のご挨拶のあと炭手前、そのあと茶懐石があって、お菓子とお濃茶、って感じ。俺も前一回だけ綾小路さんとこの初釜に呼ばれたくらいだけど、まあ、足痺れただけ」
「綾小路さんとか人数多そう」
「ですよね。今年もまた行くことになってます」
良太の科白に、浩輔は目を細めて笑った。
「先生のところはお弟子さん総勢五十名ほどだけど、田舎に帰ってる人もいるんで三十名くらいかな、参加者は。綾小路小夜子さんと『やさか』の黒岩研二さん、それに沢村さんが呼ばれてるみたい」
「まあでもイベントの茶の湯と並行してだから、そう長くないんじゃないかな、頑張れば大丈夫!」
「はい、頑張ってきます~」
レストランを出ると、心なしか背中をどんよりさせて浩輔が水屋へ向かった。
水屋に近い朱雀の間で茶事は行われるらしい。
「なあ、場違いなのは俺だけじゃなさそうだぞ。あの、黒崎一護みたいなでかいヤツ」
茶席に戻ると沢村が言った。
良太が顔を向けると、茶の湯の待合近くに、確かに着物に袴姿が似合い過ぎるきっぱりとした大柄の男前が立っていた。
「研二さん」
良太は声をかけた。
「良太くん、あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします」
挨拶を交わした後、良太は研二に沢村を紹介した。
「沢村です。こちら『やさか』のオーナー、黒岩研二さん」
「関西タイガース、ファンですよ、実家京都ですよって」
研二は言った。
「ありがとうございます、沢村智弘です。パティシエ、ですか? 柔道家かと思った」
「あたり。研二さん、有段者」
良太が補足した。
「やっぱそうか」
沢村は一人頷いた。
「小林千雪さんとは高校の同級生なんだ」
「ああ、美人な小説家の」
余計なことを言うなと、良太は目で沢村を睨む。
「研二さん、お茶とか、初釜とか得意、ですよね?」
良太が聞くと、「まあ、仕事柄」と研二が言った。
「ほら、お前、研二さんについて行けば? 見様見真似で何とか切り抜けろ」
「わかったよ」
「まあ、正客じゃなければ大丈夫ですやろ」
研二が言った。
「まさか、佐々木さんのお母さん、お試しとかって、わざとお前を正客とかにしないよな?」
ふと良太の頭に一つの疑問がわいた。
「何だよ、正客って?」
「だから、さっきの席でお前のお母さんがやってただろ? 客の代表で、お菓子がどうとかお茶がどうとか茶わんがどうとか聞いたりって」
「ああ」
沢村は憮然とした表情をしているが今一つわかっていないようだ。
「多分、大丈夫やないかな? 正客は小夜子さんや思いますよ」
研二の言葉に少し良太もほっとした。
「とにかく、茶席をぶち壊すようなマネだけは避けろ」
「わかってる」
沢村はムッとした顔をした。
「あ、じゃあ、綾小路さんとこの初釜も?」
ふと思いついて良太は研二に尋ねた。
「ええ。お菓子をご利用いただいてますし」
「俺も行く予定なんです。じゃ、またその時に」
「はい」
「沢村のこと、よろしくお願いします」
研二は頷いて、沢村を伴って朱雀の間へと向かった。
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