花さそう32

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 工藤と良太が上のコースに行ってみたりしているうちに、森村はもう牧について行ける程になっていた。
 十二時半頃、森村がスキーセットをレンタルしたロッジに集合し、ランチを取った。
 工藤に一生懸命ついて回った良太には、何だ、もうそんな時間か、と少しばかり残念な気がした。
 そんなに言葉を交わしたわけではないが、工藤と二人でスキーとか、こんな機会はこれから先あるかどうかくらいの珍しいことだと良太は思う。
 だがロッジに入り、美味そうな匂いが鼻をくすぐると、途端に空腹が蘇った。
「ハンバーグカレーセットが二つと、ラーメンと焼き肉定食、カツ丼が一つですね」
 良太がみんなのオーダーを繰り返すと、牧と工藤は席に残り、森村と良太がランチを調達に行った。
「よう!」
 良太と森村が二人分のトレーを掲げてテーブルに戻ろうとしていた時、声がかかった。
「お、ここ来てたのか?」
 コーヒーを二つ手に持って立っていたのは小笠原だった。
「俺ら気づいてたんだけどさ、美亜、初心者だから、下の方でゆっくり滑ってた」
 サングラスを少しずらしていたずらっぽそうに笑うと、美亜の方を振り返る。
 美亜はひらひらと手を振った。
「大丈夫か? ケガさせたりしてないよな?」
「俺様を何だと思ってる。スキースノボ歴二十年近いんだぞ」
「へえ」
「おま、信じてないな?」
「いや、まあ美亜さんが楽しそうでよかった」
「おう、じゃな」
 小笠原は美亜の方へ向かう。
「いいなあ、彼女と二人でスキーとか」
「お前も早く見つけろよ」
 良太はクスリと笑う。
「ああ、でもさすが元シールズだよな、お前、あっという間にすべれてるじゃん」
「マッキーの教え方がうまいんだよ。俺がミスっても全然怒んないし」
「そうなんだ」
「でもウダツノ上がらない俳優とかやってる人とこれ以上付き合えないって大学の時から付き合ってた彼女にフラれたんだって。あ、これ個人情報」
 よくわからない言葉を棒読みした森村はすぐに口を噤む。
「誰にも言いやしないよ。下積みの俳優さんたちって大変だよな。それだけで食べて行けないから、バイトとかやらないとだし」
 良太は頷きながらボソリと言った。
「宅配便と居酒屋でバイトしてるんです」
 その頃、牧も工藤に普段は何をしているのか聞かれてそう答えていた。
「劇団の方は出ていくばっかだし、たまにドラマのちょい役とかもらっても、全然食ってけないどころか家賃も払えないんで、バイトはかけもちです」
「先達のやり方を踏襲しろというわけじゃないが、十年下積みでようやくワキでレギュラー入ったくらいの人はいくらもいるからな。だが、演劇にしろ芸術関連の道を選ぶ者にとってはそういう時間もまた生き方の深みにもなる」
 工藤はそうそう人に同情もしないが、こんな風に下っ端役者に語ることもままあることではなかった。
「はい。肝に銘じます」
 牧は爽やかな表情ではっきり答えた。

 


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