花さそう36

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 みんなのあとから屋敷に入った工藤は杉田に「来てくれたのか、すまないな」と声をかけた。
「このお屋敷が賑やかになるの、あまりないことですもの」
 笑顔でお茶を振舞う杉田が続けて「ぼっちゃ……」と言いかけたのを工藤は遮って「平造、好きなように見てもらうからあとはいいぞ」と後ろの平造に言った。
 それを聞きつけた良太は思わず笑いを堪えながら、「皆さん、お疲れ様です。絵は奥の部屋にまとめて出してあるので、一段落ついたらどうぞ奥へ」と声を張り上げた。
「ティーセットはウエッジウッドとマイセンですね」
 藤堂が言った。
「あの絵は十九世紀のイギリスの風景画ですね」
 皆が奥へと行ってしまってからも、リビングの壁に飾られている大きな絵を見て、なるほど、と藤堂は頷いた。
「テーブルスタンドはエミールガレ、おや、この猫も花瓶もそうですね。家具などもアンティークの骨董品ですね」
 アンティークのテーブルの上に飾られた置物などを藤堂はじっくり見ていく。
「古伊万里の壺に苔梅と木瓜、大胆で素敵ですこと」
 理香は壺に生けられた枝物に目をとめたようだ。
 工藤はリビングのソファに一人陣取り、所在なさげに脚を組む。
 今回、休養だと自分に言い聞かせて仕事から極力離れているつもりだが、そろそろ手持無沙汰に限界がきそうである。
「あら、ぼっちゃんはご一緒しなくていいんですか?」
 紅茶のお代わりを工藤のカップに注いで、杉田が言った。
 大方は奥の部屋に行ってしまっているし、藤堂も離れたところに立っていたが、壁の絵に夢中なようなので、工藤は助かったと眉を顰めた。
「頼みますから、杉田さん、その、ぼっちゃんってのはやめてください」
「あら、つい、くせになってて。皆さんの前では注意しておきますね」
 暖簾に腕押し、笑ってキッチンに去る杉田を見送ったところで、「社長」と奥の部屋から平造が出てきた。
「旦那様が絵をいつ頃手に入れられたのか、お分かりかとおっしゃるんですが」
「俺は全くわからないぞ。物心ついた時にはあったんだから」
 仕方なく立ち上がると、藤堂も工藤の後から奥の部屋へと入って行った。
「一応、今あちこちに飾ってあったものもここに集めたんですが、この辺りの絵はかなり以前のものでわしにはわからないんですが」
 平造の言うこの辺りの絵というのは、デッサンが数点と油彩画が数点だ。
「これ、モディリアニやないかと。こっちの油彩はピカソとデュフィの作品やと思いますが」
 佐々木が言った。
「これ、モディリアニだ、絶対」
 悠が断言する。
「千雪が言ってたやつだろ? しかし本物か?」
 工藤がうーんと唸る。
「モディリアニ、本物だと思いますよ。ここにサインがある」
 後ろから来た藤堂が言った。
「モディリアニの作品は大体知られてますが、カフェでデッサンを描いて酒代を稼いでいた、なんて逸話があるんですよ」
 藤堂の説明にみんなはただ頷いた。
「ですね、ピカソも多作家やったし、工藤さんの曽祖父さん、本物志向やいうことは、他の作品見たらわかりますわ」
 佐々木も藤堂に追随する。
「はあ、そうなんだ………」
 良太はただ感心して見つめるだけだ。
「いんじゃね? 本物だろうが何だろうが、いい作品なら」
 沢村がざっくりと結論付ける。

 


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