花さそう37

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「工藤さん、もしご希望なら鑑定に出しますが?」
 藤堂がやんわりと問いかけた。
「沢村じゃないが、俺は本物だろうがかまやしない。騒がれるのもごめんだしな」
 工藤はフンと鼻で笑う。
「そうおっしゃるだろうと思いました」
 藤堂は笑みを浮かべた。
「蒐集家のターゲットにされるのも嫌でしょうし。しかしよく集められましたね、しかも私に言わせるとどれも外れがない。価値というよりもいい作品が多い。曽祖父様はよほど目が肥えておられたようです」
「確かにそうなんだろうな。横浜の屋敷を売った時、ここだけは残した方がいいと平造に言われたが。俺より平造の方が、よくわかっていたんだろう」
 部屋はギャラリーのようになっており、四方の壁にはピクチャーレールが設置され、絵が適度な間隔を空けて掛けられている。
 照明は薄暗いくらいだが、作品に極力刺激を与えないような明るさだ。
「この部屋は作品の保存に最適に設定されてますよね、空調システムがようきいとるみたいやし」
 二人の会話を聞いていた佐々木が言った。
「それも平造が、業者にやらせたらしい」
「なるほど。ビュッフェが何点かありますが、お好きだったんですね」
 独特なタッチの絵を見ながらそう言うと、藤堂は隅で黙って見守っている平造に目を向けた。
 いつもはもっと騒ぎそうな面々も、何やら静かに作品を見て回っている。
 良太も一通り絵を見たが、以前、泊った部屋にあったと記憶しているツンツンした絵もそこにあった。
 平造は年に数回、各部屋の絵を換えていることも良太は知っている。
 どれが誰の絵なのかとかはわからないが、藤堂や佐々木の話を聞くまでもなく、工藤の曽祖父は本物志向の人だったのだろうと思うし、おそらく鑑定してもらうために千雪に預けた例のペンダントも宝石も本物なのだと思う。
 沢村や工藤が言うように、いい作品であればそれに越したことはないし、誰の作品であろうが本物であろうが偽物であろうがどうでもいいことなのかもしれない。
 いくらのものかという価値観はそこに必要はないのだろう。
 だが、良太にしてみれば、やはり大ごとだ。
 仮に本物のルビーではなかったとしても、大切なものにはかわりはないだろうが、本物だとしたら、良太が持っているのは荷が重いのだ。
 それを理由に工藤に渡してしまいたい。
 もし工藤が拒否ったら、平さん、預かってくれないかな。
 ぼんやりとそんなことを考えていると、「何かまた悩んでる?」と耳元で囁かれた。
 ほんとに宇都宮の声はドキッとする。
「いえ、ちょっと。宇都宮さん、こういう作品はいいものはいい、で済むかもですけど、例えばですね、宝石類とかだったら、やっぱ俺、本物か偽物かで違うと思うんです」
「んん? そうだねえ、石の場合、輝きが違うしねえ。何、そんな宝石を持っているわけ?」
「あ、いえ、あくまでも例えば、の話です」
 良太は慌てて否定した。
「ふうん?」
 宇都宮はちょっと疑わし気な眼差しを良太に向けた。
 たまたま二人が目に入った工藤は途端、表情を険しくした。
 何をこそこそやってるんだ。
 


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