花びらの囁き8

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 河崎が自分を嫌ってるのは知っている。
 そんなことはどうでもいい。
 だがそれ以上に藤堂をよくわかっているだろうことも知ってる。
 そう所詮は金のある人間の遊びなんだ。
 いつか高津が言った通り、真剣になったらバカみるのは俺。
 わかっているつもりなんだけどな。
 あまやかされるのが心地よくてさ。
 でもこのままじゃダメだ。
 あんな河崎のヤロウなんかに言われなくたって自立してやらあ!
 結局、高野昭三の個展も見ないまま階段を駆け降りた悠はとぼとぼと地下鉄に向かった。
 
  
 

 
 
 藤堂が部屋に戻ると、アイちゃんがいつものごとく大歓迎のお出迎えをしてくれた。
 ただいま、とアイちゃんを存分に撫でてからリビングに入るが、悠の姿はない。
 灯りがついているから帰っているはずだと思いながら、自室で着替えて出てくると、バスルームのドアが開いた。
「もう準備はできたのか?」
「ああ」
 いつにもまして無愛想な答えを返すと、パジャマ姿でタオルを首に引っ掛けた悠はキッチンの冷蔵庫からお気に入りの十八茶を出して飲んでいる。
「明日出発はお昼過ぎ? 空港まで送っていくよ」
「いい。高津と新宿から成田エクスプレスで行く」
 悠はそっけなく答える。
「そうか、じゃ、新宿まで……」
「いいってっだろ!」
 藤堂の言葉を遮って声を荒げる悠に、「ご機嫌斜めだな」と笑い、藤堂は「あ、そうそう、これ、忘れないうちに」と真新しい携帯を差し出した。
「何だよ、これ」
 眉を顰めて悠が問い返す。
「携帯持ってなかっただろ? 海外で携帯ないと不便だよ」
「んなもん、いらねーよ!」
 悠はすぐさまそれをつき返す。
「リードのつもりかよ! 俺はあんたのペットじゃねぇ!」
 頭の中にまたオフィスでの河崎のセリフがよみがえって、悠の中にまた怒りがこみ上げる。
「おいおい、誰がペットだ? 何を言ってるんだか。高津と別行動とったり、万が一はぐれたりした時、連絡が取れなかったら困るだろう?」
 まさか悠がオフィスでの河崎とのやり取りを聞いていたとは知らない藤堂は、ペットだなどという言葉の一致が引っかかる。
「もらうのがいやだと言うんなら、とりあえず貸してあげるから持っていきなさい」
 大人の口調でたしなめる藤堂に、悠はブスっとしたまま携帯を手に取った。
「寝る」
 とっとと自分の部屋に行こうとする悠の手を引いて、藤堂は悠を振り向かせる。
「何かあったら連絡しなさい」
 優しい言葉が悠の耳元で囁く。

 


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