花びらの囁き11

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「村松幸蔵。こーんな確かな後ろ盾があるってのに……」
「高津!」
 ここがパリだからなのか、酒に酔っているからなのか、高津は常日頃の状況把握ができなくなっているらしい。
 村松幸蔵が悠の父親だということを知っているのは、高津とそれに藤堂の二人だけなのだ。
「え、ウソ、お前の親父って村松幸蔵なのか? 日本画壇の巨匠じゃんかよ。何でお前、油やってんだ?」
「俺のどこに日本画やるようなとこ、ありますかって」
 フン、と悠は断言する。
「まあ…………、ないな。でも、畑は違っても実力あるんだし。そうかー、やっぱDNAってやつが問題かぁ」
「んなもん、これっぽっちもない! 親父の影響なんか金輪際受けてないし、俺のDNAはオフクロだけっすから!」
 声を張り上げて、悠は大野の言動を否定した。
「こいつガキの頃、両親離婚したらしくて。そんで今まで親父さんが入れてくれてる養育費も一銭も使ってねぇんだから」
「誰が使うかよ、そんなもん!」
 むきになって言う悠に、高津はだからさ、と首をふる。
「お前ももちっと大人になって考えてみろよ。いいか、親父さんのは養育費。藤堂のは絵の代金。どっから見てもお前がもらって当然の正当な理由の金じゃん。それを変な意地で使わねぇなんざ、愚の骨頂ってやつ」
 高津はさらに畳み掛けるように言った。
「いいか、お前の人生の入り口で藤堂がくれた金を使ったところで、あとになってお前がビッグになってから、あの時、お世話になったお蔭様でこんなになりました、と返せばいいことじゃん。そんなにもらうのが嫌なら」
「何それ、藤堂って」
「悠のあしながおじさん」
「ざけんなよ、高津!」
 悠は怒って立ち上がる。
「おい、まさか、デブバラの好きモノ成金親父に言い寄られてんじゃないだろうな?」
 大野も酔っているからけらけらと笑う。
「ちがーう、これがまた切れ者のエリート広告マン、しかもええとこのボン。さらに、俺よりちっとばっかカッコいいってやつで、こいつが居候してる部屋の主」
「るせー高津、お前、もう明日から絶交してやってもいいぞ!」
 いい加減、堪忍袋が切れそうになって、悠が喚いた。
「お前の絵、気に入ってくれてんなら、いいんじゃねーの?」
 さらりと大野が言った。
「え……」
「その藤堂って人のこと、お前、嫌いじゃないんだろ? 嫌いだったら悠の性格じゃ、そいつんとこで居候なんかしてねーもんな。なら、高津のいう通り、ビッグになってから、お世話になりましたって、言えばいい」
 ワインを数本あけた三人はその場でひっくり返り、そのまま寝てしまった。
 悠が夜中に目が覚めたのは、夢を見たからだ。
 日本を発つ前の晩、キスを拒んだ時の、苦笑した、何だか寂しそうな目をした藤堂が、夢から覚めても消えない。
「藤堂……」
 キスくらいさせてやればよかった。
 もしか、帰りの飛行機が落っこちたら、化けて出そう、俺。

 


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