綾小路家で食事会が行われたのは七月の最終土曜日のことだった。
夕方京助の車で綾小路に向かった千雪は、母屋のエントランスで車を降りた。
「いらっしゃいませ」
いつもながら慇懃無礼にこの家の執事藤原が千雪を出迎えた。
「お招きいただいてありがとうございます」
一応型通りの挨拶を口にした千雪は、手にしていた紙袋を藤原に手渡した。
「吟醸酒と、『やさか』のお菓子です」
千雪には、お口に合うかどうかとか、つまらないものですが、などという言葉はまず期待はできない。
それは相手が誰であろうとなので、好印象を持たなれないこともあるが、それを気にするような千雪ではない。
「千雪さん、よかった、来てくれたんだ」
藤原の後ろから顔を出したのは紫紀の息子、大だ。
「こんばんは」
大の言葉に裏はないから、素直に笑顔が浮かぶ。
その時、濃いグレーのセダンが車寄せに横付けされ、千雪の伯父で小夜子の父、原俊一郎と妻の正子が降り立った。
「千雪」
俊一郎は千雪の姿を見つけて、そう呼んだが、逡巡しているようで次の言葉が出てこないようだった。
「いらっしゃいませ」
藤原が夫妻を出迎え、千雪は車をガレージに入れに行った京助を待たずに、伯父伯母とともに玄関ホールへ入って行った。
藤原に案内されて食事会が行われる大きなダイニングルームへと向かう途中、千雪が口を開いた。
「せや、伯父さん、伯母さん、俺、自分の意思で京助と付き合うとりますから、ご心配には及びませんよって」
世間話をするかのように、険しい顔の伯父と心配そうな伯母の前で、千雪ははっきりと言った。
いきなりな展開に、一瞬、あたりに沈黙が走った。
藤原もしっかりそれを聞いたが、だからといって動じることはなく前を歩いて行く。
「い…や……付き合ってるって、ご心配には及びませんって、千雪も京助さんも、今後のことだってあるだろう」
しばし二の句がつけなかった原俊一郎は、ダイニングルームに入った途端そんな言葉を絞り出した。
「今後どうなるか言われても、俺もちょっとわかれしまへんけど」
またしてもハトマメな表情になった伯父も、今度こそ何を口にしていいかわからないようだった。
「そんなところでの話もなんだから、どうぞ席に着いてください」
大長も原夫妻を気の毒そうに見て、テーブルへと促した。
「ああ、これ以上のことを聞いても何も出てこないから、オヤジもこいつに質問とかしない方がいいぜ。せいぜい法律かなんか持ち出してやり込められるのが関の山だ」
三人を追ってきて千雪のこれ以上にない発言をちょうど耳にして気をよくした京助が、尻馬に乗ったように父親に言った。
「さては、千雪くんにやり込められた人がいるらしいな。今夜は小夜子さんのためにお集まりいただいてありがとうございます。どうぞお席へ、皆さん」
柔らかい口調で紫紀が笑顔で言うと、我に返ったようにみんながテーブルに着いた。
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