またぞろ父親が好戦的な京助とやり合うことになる前に、小夜子のめでたい食事会だということを思い出させようと、紫紀は先手を打ったのだ。
京助と千雪のやりとりに静まり返った空気の中で、当の小夜子は千雪が顔を見せたことだけで機嫌がよく、「千雪ちゃん、こっちへいらっしゃい」と千雪を手招きした。
「新しい命の誕生と皆様のご健康とご多幸を記念して」
なんとも硬い表情の俊一郎と大長はそれでも紫紀の短い挨拶の後の乾杯の言葉にグラスを掲げた。
一方双方の細君はいつも通り笑顔で歓談を始めた。
「紫紀さんに見せて頂いた原夏緒さんの『紫陽花』、ほんとに素敵ですわね。今度、うちの居間にお借りすることになりましたの」
ちょうど千雪の隣に座る大長の妻で、小夜子や紫紀には義母にあたる佐保子が話しかけた。
「あれは確か、俺の小学校の頃に描いていた絵や思います。ちょうどうちの庭に紫陽花がたくさん咲いて。今も頼んで手入れしてもろとりますから、今年も咲いとるんやないかな」
「あら、頑張って見に来て下さるの待ってるのね」
屈託なく笑う佐保子は、京助に言わせると何もできないお姫様で楚々として見えるが、時折突拍子もないことをやらかす、自由人、なのだという。
京助の弟亮の母親だが、紫紀や京助とも何の摩擦もなく今日に至っている。
「小夜子とは世界が同じだからいんじゃね?」
バカにしたように京助は言っていたが、小夜子からは、何も口出しすることもなくやりたいようにやらせてくれると聞いている。
佐保子や小夜子、マギーらの笑顔につられるように場は和やかさを取り戻し、そのうち孫の大と千雪の映画の話をしていた大長が、話の延長のように「そういえば」と千雪に声をかけた。
「二作目が近々封切られるそうだね。大にDVDで『花のふる日は』を見せてもらったがいい映画だったし、楽しみだね」
「ええ、プロデューサーにお任せしてますよって細かいことはわかりまへんけど、公開の前のインタビューとかが面倒で」
千雪が言うと、「やっぱいつものコスプレでインタビューされんの?」と大が興味津々で聞いた。
「いきなりこれで出てったら、それこそマスコミが大騒ぎするんだよ」
大に答えたのは京助だ。
「だよなあ」
大が妙に大真面目な顔で頷くと周囲が笑った。
千雪がふと目をやると、俊一郎とマギーが談笑していた。
そんなこんなでどうやら食事会は、いい収まり方をしたようだ。
構えていた千雪も、普段にこりともしない藤原が少し笑みを浮かべたのを垣間見て、まあ、いいか、と肩の力を抜いた。
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