スタジオに通された千雪は、青山プロダクションの顔見知りの社員秋山から早速監督の大秦と脚本家の西村を紹介されて軽く挨拶した。
工藤から再三電話をもらい、数日後、千雪は仕方なくやってきたのだが、安西のマネージャーの件を平謝りされたあと、結局は大秦も西村も作者である千雪には何か要望がないのかという話だった。
「ドラマや映画になったら自分の手を離れたもんと思うてますから、プロデューサーの工藤さんや制作の皆さんにお任せします」
勝手にやってや、というだけのことを千雪は一応丁寧に言葉にした。
「ご希望の俳優さんとかはいかがですか?」
「よく聞かれますが、あまりよく知りませんし、それもお任せしております」
すると一気に話は以前、犯人がモジャ頭に黒ぶちメガネ、ジャージの名探偵を名乗ったことで容疑者にされた事件のことになり、千雪は心のなかで毒づいた。
要はこの『名探偵』に直に会ってみたかっただけやないのんか? このおっさんらもアホな警察と五十歩百歩や。
千雪に心の中で思い切りボロクソに言われているとも知らず、おっさんらは勝手に話して勝手に笑う。
秋山から当の工藤は別件で遅れると言われたが、だったら工藤が来る前にとっととバックレたい、と千雪は思い、スタジオを見回した。
主演の一人大澤流と話しているのは同じくドラマに共演する中川アスカだった。
青山プロダクションの今や看板俳優である。
秋山はそのアスカのマネージャーとして、常日頃彼女の我侭、もとい天真爛漫な行為が暴走するのをクールに抑える役目を負っている。
「先生! 来てらしたの!!」
視線を感じたのか、アスカが目ざとく千雪を見つけて走りよってきた。
「渋すぎない? 今日のスーツ」
アスカが小声でぼそっと口にする。
「余計なお世話や」
最近は千雪も昔ほど服に気を使わなくなってきた。
「ダンヒルなんて、ユキには早いわよ」
「うるさいな」
そこへアスカの後を追うように大澤がやってきた。
「なあ、小林先生、こないだの安西じゃないけど、今回、俺を選んだ理由は?」
「キャスティングもみんな工藤さんに任せてありますから、俺の意見は入ってませんよ」
またしても挨拶もそこそこにいきなり軽く割り込んできた大澤に、内心またムッとしたものの、小林先生、としては何とか自分を制した。
「へえ……」
しばし大澤はじっと千雪を見つめていたが、
「じゃ、今回俺を起用したことについての、先生のご感想は?」
「それは作品を見てみないとわかれへんでしょう」
いかにも生意気そうなその態度に、先日の件とあいまって、ほんの少し千雪の口調がいらつきを含む。
「なるほど」
それからすぐに撮影に入ったので、千雪はしばらく隅で役者が演技するのをぼんやり眺めていた。
山根らにも話したように、自分の作品が映像で段々具体的な形をなしてくると、とっくに自分の作品から抜け出しているのを千雪は感じていた。
映画を見た時には、もはやそれは自分の作品であって、自分の作品でない、そんな気がした。
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