霞に月の43

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「え、ほんとですか? いつ?」
 良太もこういう展開には嬉しくなる。
「うーん、今から準備するから、来年の春あたりかなあ」
「大森さんの作品、木彫ででかいから、作品仕上げるのも時間かかりますよね」
 良太は以前、銀座で大森が個展をやった時、見た作品を思い出して言った。
「そおねえ、でも、ノリがよければ二週間くらいでできちゃうこともあるのよ」
「そうなんだ? 前にやった銀座のギャラリーより広いから、大森さんワールドが展開しやすいですね」
「そうそう。『銀河』はちょくちょく覗かせてもらったことがあるけど、まさか藤堂さんが『銀河』の人だなんて知らなかったよ」
 二人はCM撮影などで顔を合わせていて知り合いだったが、仕事以外の話はしたことがなかったらしい。
「藤堂さんから、次の作品展は計画してるのかって聞かれて、びっくり!」
「そりゃもちろん、大森さんが芸大出の期待のアーティストだあってことくらい、ちゃんとここにインプットされてますから」
 藤堂は自分の頭をちょっと指で突いて見せる。
「半端ないですもんね、藤堂さんのデータバンク」
 良太は頷いた。
「でも今日、ほんとすごい人がいっぱいいらっしゃってて、佐々木さんもすごいファンなんですけど、ほら、仕事の時って、佐々木さんすごい厳しいオーラだから」
 大森が下柳や宇都宮と話している佐々木を見て目を輝かせた。
「あ、じゃあ、ご紹介しますよ」
 藤堂が大森を連れて佐々木らのところへ向かうと、良太はもう一度香坂准教授に目をやった。
 と、千雪が良太を手招きした。
 傍らには研二と匠が加藤や辻らの顔もあった。
 早速、匠を前に小野寺が歓喜しているのも見えた。
「工藤さん、来るんか? ひょっとしてバックレたとか?」
 良太が歩み寄ると、千雪が耳元でこそっと言った。
「あり得ますけど……」
 良太は小首を傾げた。
「何も連絡ないんか?」
「ええ……」
 ふと、やっぱり工藤が来なければいいと思っている自分に良太は気づいた。
 やっぱ、工藤と誰かが幸せになるのとか、俺は見られないや。
 心が狭い人間でも何でも。
 その時紫紀の声がした。
「お忙しいところありがとうございます」
「遅くなりましたが、お招きいただきましてありがとうございます」
 良太が振り返ると、紫紀に挨拶する工藤の姿があった。
 工藤がこちらに顔を向けたと同時に、「え、高広!?」という声の主を見た良太は驚いた。
 驚いたのは良太だけでなく、千雪も香坂准教授を見た。
「あ? クロエか?」
 工藤が思いもよらず香坂の名前を口にした時、良太は自分の周りのすべてが崩れ落ちるかのような、そんな怖れに見舞われた。

 


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