朝から雨が降りつづいていた。
「お帰りなさい、お疲れ様です。今日は一日雨みたいですね」
四時頃オフィスに戻ってきた工藤を鈴木さんが出迎えて外に目をやった。
「コーヒーになさいます?」
「お願いします」
工藤が奥の自分のデスクに落ち着いた途端、携帯が鳴った。
鈴木さんが工藤の前にコーヒーを置いた時、オフィスのドアが開いて秋山とアスカがが入ってきた。
「すごい雨。靴が濡れちゃった」
ソファに座りしな、アスカがヒールを脱いだ。
「あらあら、大丈夫? アスカさん。ちょっと待っててね」
鈴木さんはスリッパをアスカに差し出すと、キッチンから使い捨てカイロやガーゼを持って戻ってきた。
「染みにならないうちに乾かしましょうね」
「うわ、ありがとう」
「雨が降っても身だしなみは大事ですものね」
鈴木さんは靴をガーゼで軽く拭いてからカイロを両方に入れた。
「秋山さんも乾かしましょうか?」
「ありがとうございます。カイロだけいただけますか?」
鈴木さんは秋山にもスリッパとカイロを渡してから、コーヒーを入れるためにまたキッチンに入っていった。
「ねえ」
アスカが秋山に声をかけた。
「ああ。でも、まだ電話中だろ」
鈴木さんが戻ってくると、二人はお互い目を見合わせながらそんなやり取りをしている。
「良太は今日は戻ってこないの?」
コーヒーを飲みながらアスカが鈴木さんに聞いた。
「今日は一日出ずっぱりだって、今朝言ってましたよ」
「そう」
するとアスカは表情を曇らせて、また秋山を見た。
「奈々ちゃん情報だと、工藤さん、一旦オフィスに戻るはずだから、その時にちゃんと言ってよ」
オフィスに戻る途中の車の中で、アスカは秋山に念を押すように言った。
「そうですね、まあ、言ってはみますけど」
それに対して秋山の返事は煮え切らないものだった。
「だっておかしいじゃない、工藤さんがたまにオフィスに立ち寄ったりしてるのに、良太がずっといないとか。絶対、工藤さんのこと避けてるのよ、良太」
香坂の拉致監禁騒動や良太が殴られて一晩入院したことなど、アスカや鈴木さんのあずかり知らないことだった。
知っているのは森村と秋山と谷川、それに工藤のみだ。
アスカが心配しているのは、工藤と良太の間がぎくしゃくしていることだった。
「絶対あのパーティの時、香坂って准教授と工藤さんがやけに近づいたから、良太が怒ってるに違いないのよ」
アスカはひとみや千雪にまで連絡を入れて、香坂が工藤と高校の同級生だったことやどうやら二人が食事をしたらしいことまで聞き出し、「ちゃんと良太に説明しないといくら良太でも堪忍袋の緒が切れるわよ」と秋山に工藤を説得しろ、というわけだった。
「でもねえ、こういう問題は微妙なところがあるから、第三者が軽々しく立ち入らない方がいいと思うが」
秋山にしてもアスカの言いたいことはわからないではないのだが。
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