恋ってウソだろ?!56

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「何か飲み物もろてくるわ。直ちゃん何がええ?」
 佐々木は立ち上がって直子に聞いた。
「うんとね、ミモザがいいな」
「わかった」
 今度はバーテンダーをしている浩輔のところに行って、佐々木はミモザと自分にはブラッディマリーを頼んだ。
「藤堂さん、実は友人が来てもいいかって言うんですが」
 そこへ良太が来てカウンターの中でカクテルをシェイクしている藤堂に尋ねた。
「良太ちゃんのお友達なら、どうぞどうぞ大歓迎」
 どこまでもフレンドリーな藤堂らしい。
 佐々木がグラスを持って直子のところに戻った頃、入り口が賑わいで、無精ひげとジーンズの下柳を伴った華やかな女性が現れた。
 胸元が大きく開いた黒とパープルがビビッドなエミリオ・プッチのドレスがよく似合うその女性は良太を見つけると親しげにハグしている。
「さすがにきれいだなぁ、山内ひとみ。年齢感じさせないよねぇ」
 直子が呟いた。
 元英報堂というだけあって、招待客も著名人や業界関係者が多い。
 彼女が実力派の大女優山内ひとみだとは、佐々木も顔と名前が一致する程度には知っている。
 下柳に挨拶に行くべきところなのだろうが、疲れというより、精神状態が急降下したまま成す術もないといった態の自分を佐々木はもてあましていた。
「うわ、びっくり、沢村が現れた!」
 自分の心の中に入り込んでいた佐々木は、直子の言葉ではっと顔を上げた。
「雨でさ、冷てぇのなんの。せっかくのイブも台無しって感じ」
 入り口で濡れたコートを脱いでいる男の声が佐々木にも聞こえた。
 佐々木は身体が硬直したように動けない。
 まさか…………。
 この場に現れるとは思っていなかった。
 紛れもない、沢村、本人だ。
「良太ちゃんのお友達って沢村選手だったの? あ、そっか、『パワスポ』で」
 関西タイガースの沢村とわかり、藤堂が大仰に声を上げる。
「逆ですよ、お友達だったので、『パワスポ』なんです」
 沢村はわざわざ訂正し、抱えていた包みを藤堂に差し出した。
「『越の寒梅』と『酒盗人』です。遠征に行くたびに、好きなんで買うんですよ」
 グラスに焼酎をもらった沢村は、佐々木と直子が座るソファの向かいに陣取るとワインを手にした良太がその隣に腰を降ろした。
 佐々木に気づいていないのか、それとも無視しているのか、沢村は佐々木の方を見ようとはしない。
 それでも会話が佐々木の耳にも届く距離に二人はいた。
「正月の特番、しっかり頼むぜ。お前次第で視聴率左右するんだからな」
「まかせとけって」
 心臓が飛び出しそうになるほど狼狽えたことなどなかった。
 しかも何だ、このわけのわからない…………。
 むかつきというには度を越えた嫌な感情。
 それが何なのか佐々木は思い当たり、ふうと深く息をついて、顔の前に落ちかかった髪を苛立たしげにかき揚げる。

 


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