好きだから17

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「え、まあ、うちは貧乏だけど、借金背負っても子供に高等教育受けさせてくれて、工場取られても、ほんわか生きていける親ですからね…ってか、俺のことなんかどうでも、とにかく、遠野さん情報だと、沢村の父親のお抱え弁護士事務所が雇ってる興信所の調査員で、元警官の五十がらみのオッサンらしくて、画像送ってもらいました」
 空になったグラスをまとめて良太は腕時計を見た。
「なるほど、そうすると、プランB決行だな」
 藤堂が一人頷いた。
「え? ちなみにプランAは?」
「時間になったらここを引き上げて、みんなでラウンジで仕切り直し」
 つまり、当初の計画通りということかと、はあ、と良太は脱力する。
 そんな外野の雑念も無意識のうちにシャットアウトして沢村と佐々木は窓辺に佇んでいた。
「来てくれないかと思った」
「直ちゃんが、どうしても行きたい言うから……」
 ぼそりぼそりとたいして会話が進むわけではなかったが、沢村は佐々木の顔を見られただけで舞い上がってしまった。
 たったそれだけのことで、涙が出るほど嬉しいとか、二十数年生きてきて初めての体験だった。
「あれ、新聞とかの、クソオヤジが騙しやがって会わせられただけだから。母親が慈善活動なんかやってて、その関連だとかって、じゃなけりゃ、オヤジの、ってか、沢村とかオヤジの会社とか一切断ってるし。今後オヤジが何か言ってきたって金輪際NOだ。あの男は生まれた時から俺のことを疎ましがっていたくせに、俺の名前が知られるようになったら今度はそれを自分の利益のために利用しようとするような男だ。胸糞悪くなる」
 沢村は一息に言い放った。
 ただ、言い過ぎたことで面倒な事態になったことは言わなかった。
 もう良太やアスカにバカ呼ばわりされたことで十二分に身に染みた。
 佐々木がそれを知ったら、自分から離れていこうとするかも知れないことは目に見えている。
 それだけは絶対ゴメンだ。
 際どい内角攻めの挑発に業を煮やして力んでボール球に手を出してゲッツーとか、ゲームなら絶対やらないのに。
「まあ、ろくでもない男いうことでは俺のオヤジも右に同じかもな」
 佐々木本人からは少しだが、父親の話を沢村も聞いたことがある。
 商才も甲斐性もない女にだらしない早死にした父親だと。
 だから煩いオカンだとか言いながらも佐々木は母親を大事にしている。
「そうだ、大掃除、いつやるんだ? また三十日頃にやるのか?」
「やからまだわかれへんて。まあ、そのあたりになるとは思うけど、まだ先の話やから」
「俺、十二月から自主トレやるから、ちゃんと佐々木さんちの大掃除のスケジュール押さえておかないと」
「お前がうちの大掃除のスケジュール押さえてどないすんね。自主トレやったらそれに専念したったらええ」
「それはちゃんとやるさ。ほら、俺、去年の大掃除ン時も、佐々木さんのお母さんに結構頼りにされてるし」
 やる気満々な沢村に、佐々木は少し戸惑いを見せる。
 この一年の間に折に触れて沢村は佐々木の母淑子と顔を合わせていた。
 しかも土地を購入したりと、淑子が沢村のことをどう思っているのか、佐々木は触らぬ神に祟りなしとそんなことを聞くつもりはないが、この上何かを建てるつもりでいるらしい沢村にどう対応していいのか、佐々木自身わからないでいる。

 


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