「その、思い切りバカにした笑いやめてもらえます? 俺だってちょっとは傷つくし」
良太はむきになる。
「頼りないお兄ちゃんだから大事なんだよ。傍に不埒な社長なんかいたりするしな」
ニヤニヤ笑いながら工藤は良太の方に腕を回して顔を近づける。
「ちょ……、窓の外見てくださいよ、すんげえ雪」
「ああ、さっきから見てるが、いい加減飽きた」
工藤はするりと良太の身体に手を伸ばす。
「わ、どこ触ってんです?! こういうの、俺には似合いませんて。世間話でもする方が……、ちょっと! 俺じゃなくて、ほんとはあのモデルとかとやりたいんだろ! わかってんだからな!」
良太は工藤の手を逃れて風呂から上がろうとしたが、腰の辺りをつかまれて湯の中に引き戻される。
「やめろよ、さっきだって、俺がこなきゃ、どっかの姫君に舌なめずりしてる悪大名みたいな目で千雪さんのこと見てたじゃん!」
「ほう、時代劇にも興味があるのか? だったら、とっとと企画を出せ」
「ごまかすなっ!」
「お前な、せっかく秋山が多忙な社長のスケジュールを調整して休みをくれたんだぞ、エサつきで」
「え……? 秋山さんが? じゃあ……」
珍しく良太の猫の世話を買って出てくれたのって……
「千雪のやつもグルになって、打ち合わせのついでにちゃっかり自分もスキー三昧だとさ」
「……待てよ、エサって俺のことかよ!」
ようやく思い当たって良太は喚く。
「ああ、エサでもご馳走でも何でもいい、耳元で喚くな」
「言うにことかいて、あんたな………っ!」
「姫君でも小町娘でも、エビでもタイでもなんでもいいが、とりあえず食うのはお前……」
「バ…………っ!」
工藤は良太の身体半分を持ち上げるとくるりと背中をむけさせ、風呂の淵に押しつける。
「せっかくのシチュエーションを楽しまなきゃなあ」
「この…………! スケベオヤジっ!」
良太の口から出てくるのは文句ばかりだが、散々工藤の手が撫で回した身体の方はとっくにスタンバっている。
工藤が与える熱さを脳の中枢が覚えていて、条件反射のように細胞がそれを欲しがっている。
「あっ、あっ、………あっ…………」
閉じようとしても唇は意味をなさない言葉を羅列するばかりで、身体を揺さぶられ、温泉や檜の香りと工藤の匂いが入り混じって良太の鼻をくすぐると、あとは追い上げられるばかりだ。
熱くて浴槽から半身を乗り出して檜の床にうつ伏せになったまま、しばらくするとひんやりとした空気が良太の意識を呼び戻した。
くそ……エサになって喜んでる俺って……
「こら、こんなとこでに寝るなよ」
工藤に抱き起こされた良太だが、半分ぼんやりした頭でふうと息をつくと、ゆっくりと工藤が抱き寄せた。
唇がふさがれると良太は工藤にしがみつくように腕を工藤の背にまわす。
そのあとはもうわけがわからなくなって、工藤の意のままに泣いた。
薄明かりの中で窓の外に目をやると、雪の影があとからあとから落ちていくのだった。
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