雪煙を上げてゲレンデにきれいなシュプールが描かれ、黒のスキーウエアが見る見る小さくなる。
「くっそー!」
良太は雪を蹴ってそのシュプールのあとに続く。
だがここでも工藤には負けっぱなしだ。
勢い過ぎてターンした途端、良太は思い切り転がった。
哀れにもスキーが片方外れてかなり下に滑り落ちている。
傍をスノーボーダーが二人華麗に滑り降りていった。
「あ~あ」
幸い怪我はしていないが、ちょっと腰に響く。
「工藤が悪いんだっ!」
夕べはあれからまた工藤にいいように扱われ、目を覚ましたのは食事の用意が整ってからだった。
「こっちの方がいいだろう? 和室より」
工藤はさも気をつかったかのように言い、リビングのテーブルで朝食を取っている。
「あんのスケベオヤジ!」
さほど痛みがあるわけではない。
温泉につかってたからか、慣れ………
良太はそこで思考をとめ、外れたスキーを追って片方のスキーだけで惨めそうにゲレンデを降りていく。
いきなりスキーに行くぞ、と工藤に言われたのは食事のあとだ。
「せっかく秋山が手配してくれたからな」
フロントから荷物が届いていると連絡を受けた工藤が部屋に届けてもらうと、良太と工藤、それぞれのスキー用具だった。
ホテルに聞いた近くのカーショップで、良太はキャリアを車に取り付けてもらった。
「だから、秋山さん、鍵を預かるからなんて」
有難いような腹の立つような、そんな心境のまま、良太は工藤に連れられて近くのゲレンデに来ていた。
久々、太陽が顔を出しているが、冬の色をして、すぐに近づいている雪雲にやがて隠れるだろう。
その時、シュバッ、と鮮やかな音を立てて、滑り降りてきた影が良太の傍でとまる。
「平気か? 怪我せんかった?」
顔を上げると、黒地に黄色が鮮やかなウエアの人物がゴーグルを外す。
「え、千雪さん!?」
「奇遇やなあ、リフトの上から見てそやないかと思ったけど」
「はあ、でもホテルから一番近いし、ここ」
やっと両方のスキーをつけてまともになる。
「そうそう、実は大方ここにくるやろとは思ててん」
「千雪さん、秋山さんとグルだったんですね」
良太はちょっと斜に千雪を見やる。
「そうかて、秋山さんが、工藤さん全然休み取ってないし、このままやと倒れはるやなんて言わはるしな」
「それは、ちょっと思ってたけど。あの人、いい年して、働きすぎだから」
「それにあれ、例のモデルの件で良太の機嫌をそこねた工藤さんに挽回のチャンスをあげないと」
「余計なお世話です!」
口を尖らせて反論する良太をみて、クスクス千雪は笑う。
「まあ、ええやん。それよりもう降りた方がええで。上の方、吹雪いてる」
「あ、ほんとだ」
良太が上を見上げると頂上の方から徐々に雪が強くなっているようだ。
その時、良太のポケットで携帯がワルキューレを奏でた。
「あ、はい、大丈夫です。え……はあ、カフェの方ですね、わかりました」
携帯を切ると、「工藤さん?」と千雪が聞いた。
「はあ、『カフェ・シュヴァン』にいるからとっとと来いって。あの、京助さんも一緒みたいです」
「あそ。ほな、二人が罵り合わないうちにはよ、いこ」
千雪の後に続いて、良太はロッジまで滑り降りる。
「罵り合うって…」
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