花のふる日は15

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 自慢じゃないが、あんなガキをわざわざ襲わなくても、言い寄ってくる連中はいくらでもいる。
 局にいたころから気が向けば、勝手に向こうが誘ってくるのだ、据え膳を喰らうこともある。
 中には、役を取りたくて近づいてくる男もいる。
 誰が好き好んで男のケツなんかと思っていたが、若手のイケメン俳優と言われているヤツが、一度近づいてきたことがあった。
 そこまでして役が欲しいのかと、面白半分、相手をしてやったが、その辺の女よりよほど慎ましやかで可愛げがあった。
 だが、冷酷非情だの、喰っては捨てるだの言われ、それを否定したりはしないが、嫌がる者を無理やりなどということは断じてなかったのだ。
 それじゃ、犯罪だろう、未成年ならなおのこと。
 …ったく、夕べはどうかしていた。
 乱暴したり傷つけたりしたつもりはない。
 だが、そんなことは今さら言い訳にもならない、暴力といわれたら暴力だ。
 くそっ! これじゃ、一番嫌っているヤクザと同類だろう。
 あいつに蹴り落とされてようやく自分がしようとしたことに実際青ざめた。
 あれから仕方なくほかの部屋に移り、シャワーを浴びて身づくろいをした工藤が、そっと部屋をのぞくと千雪は毛布をかぶって眠っているようだったので、そのまま声もかけずに部屋を出た。
 全く、俺としたことが………無様にほどがある。
 フン、俺こそ魅入られたか……
 名前も知らぬ、美貌の主に。
 イラついていたのは嫉妬だ。
 あの綾小路京助があのガキをと思ったら頭に血が上るほど。
 我を忘れるほど凶暴な感情にかられた。
 だから、桜から逃げるのを口実に、連れてきてしまったのか。
 不同意成功未遂に拉致監禁罪も上乗せだな。
 いよいよ命運も尽きたってとこか。
 自嘲しながら、工藤はハンドルを切った。
 ホテルに着くと車を駐車場に入れて降りようとした工藤は、ふとナビシートの下に何か落ちているのに気づいた。
「学生証?」
 見慣れた大学のそれを拾い上げ、だが、工藤は訝しげにその字面を読んだ。
 T大学大学院修士課程法学研究科、小林千雪。
「小林千雪? ってあの作家先生の学生証が何だってここにあるんだ?」
 写真の顔は確かに、一度研究室で会ったそのままのボサっとした頭に黒渕のメガネだ。
「………まさか……な」
 そのひとつの可能性は、笑い飛ばしたいほどのものだった。
 だが、関西弁と何より綾小路京助という奇妙な符号が、工藤にそれをさせなかった。
 例えようもない焦燥感に、工藤は頭を掻き毟る。
 時間が迫っているから、今それを確かめる術もない。
 工藤は携帯を取り出して、平造を呼び出した。
「ああ、俺だ。まだ、起きた気配はないか? ああ、起きたようなら頼む。起きてこなかったら、昼頃にはメシを持っていって様子を見ておいてくれ。ああ、……何かあったら、俺に知らせてくれ、頼む」
 出掛けに言い渡したのと同じようなことを平造に念をおして電話を切る。
 しばし工藤はその場に佇んでいたが、ようやく歩き出した。
 そしてもうひとつの符号の怖しさに、工藤はその可能性を強引に否定した。

 


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