ちょうどその時、リビングの大きな柱時計が荘厳な音を鳴らして六時半を告げた。
かなり古そうだが巧妙な細工だと柱時計にしばし見入ったあと、千雪はダイニングルームに向かった。
アンティークな大きな長方形のダイニングテーブルには側面に四脚ずつの肘なし椅子、両端には二つの肘つき椅子が置かれ、両端に二人分の食事が用意されていた。
「こちらへどうぞ」
千雪が席に着くと、早速平造がスープを皿に盛りつける。
「社長は仕事が終わらないと召し上がりませんから、どうぞ召し上がって下さい」
「ほな、いただきます」
サラダとパンが用意され、サンラータン風の少し酸味が効いたスープはメインディッシュがこくのあるビーフシチューだったから、さっぱりしてて美味い。
千雪が下手なレストランに行くより美味いとビーフシチューを堪能している頃、ようやく工藤がやってきた。
「お先にいただいてます」
一応そう声をかけたが、工藤は「ああ」とだけ返し、「俺には全部一緒に持ってきていいぞ」と平造に言う。
いかにもヤクザの成り上がり社長ってやつやな。
品の良し悪しとかで人を判断する千雪ではないが、工藤に対してだけは何となく見下し気味に考えてしまう。
しかし、デザートのティラミスを一口食べた千雪は、思わず、「これ、うまいな。これもおっちゃん作ったん?」と工藤にコーヒーを用意していた平造に尋ねた。
「昔、人に教わりまして。口に合いましたかな」
「ほんまに美味い。よかったらレシピ教えてくれへん?」
「ええですよ。作りなさるんで?」
「まさか、小夜ねぇに教えてやろ思て」
「ああ、従姉さんでしたか。チーズケーキを何度も挑戦したっていう」
「そやね、今、ケーキ作りにはまってるらしい」
おにぎりを食べながら昼に小夜子のそんな話もしたのだが、ふと工藤と目があって、千雪は口をつぐむ。
工藤は何か言いたそうな顔をしたが、何も言わず食事を続けた。
それに何度か携帯が鳴って、うるさそうに出て怒鳴りつける以外は、食事中の仕草や振る舞いはむしろ紳士然として品が悪いイメージとはかけ離れている気がしないでもない。
だからといって、このエロおやじを許すいうわけやないからな。
何気なく観察していた千雪は心の中で静かに毒づく。
「ああ、構わない。都合を合わせよう。だが、俺のことをちゃんと話したのか? そうか、向こうも承知しているなら問題はない。ああ、わかった、助かる」
工藤はまた携帯にかかってきた相手と話しているのだが、今度は先ほどから怒鳴りつけた相手とは違ってえらく神妙だ。
「鈴木さん、明日はお休みですか。何なら、わしが行きましょうか?」
食器を片付けていた平造が工藤に尋ねた。
「いや、それには及ばない。俺がいない間は留守電にしておく。だが、万里子のヤツがまた勝手に事務所に行ってる」
「鈴木さんが来てくれて、事務所も落ち着いたと思っていたんですが、鈴木さん、まさか辞めるとかでは?」
平造は心配そうに尋ねた。
「いや、郷里の母親が入院したらしい。三、四日新潟だそうだ」
工藤は眉を顰めて答えた。
「やっぱり、誰か緊急に入れる必要があるんじゃないですか。大学の方の募集はどうですか?」
「ダメだ。ほんのたまに連絡があるが、面接で引き返していく」
工藤は平造の言葉に首を横に振る。
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