「ハハハ、俺も天野さん、好きですよ。ってより、ザ・役者って感じ尊敬してます」
俄かに宇都宮とのことが良太の脳裏を過ったが、よもやこの天野がそんなはずはないだろうと打ち消した。
「そろそろ行きますか。ほんとに明日寝坊でもしたら、社長に雷落とされますし」
良太は笑顔で立ち上がり、伝票に手を伸ばしたが、すかさず天野が取り上げた。
「今日は付き合ってもらったお礼です」
天野も立ち上がった。
背が高い天野は周囲の視線を浴びる。
「天野右京じゃない?」
「ホンモノだ! すんごいカッコイイね!」
「ね!」
さすがにこの店ではきゃあきゃあ言うようなことはしないいようだが、レジに向かう良太の耳に、そんな声が聞こえてくる。
近くにいるとあまり考えないが、やはりオーラがあるってやつだろう。
良太はあらためて思う。
その一挙手一投足に目を奪われる。
俳優でもアスリートでも意図せずして存在意義が自ずと溢れている人がいるものだ。
主演ではなかったが、最近封切られた映画で天野はそれこそその存在感を知らしめることになった。
檜山匠がそうだったように、その影響がじわじわと出てきているのだろう。
これは俺もうかうかしてられないな。
「どうかしましたか?」
ナビシートで考え込んでいた良太は顔を上げた。
「いや、天野さん、こないだ封切られた映画でも俄然注目浴びてるし、ちょっと対応を考えないとと思って。以前、ロケで人気俳優さんのファンが押し寄せて危ないことになりかけたんですよ」
あの時は怪我をしたのが良太だったが、もし怪我をしたのが本谷のファンだったら、いろいろ大変なことになっていた可能性がある。
「やだなあ。俺なんか押し寄せるほどファンなんかいませんよ」
「それは甘いです。とにかく、ロケの時とか、対応策を考えますよ」
天野はふう、と息を吐いた。
「じゃあ、良太さんがずっと俺に張り付いててください」
「はあ?」
良太はここは笑うところだろうかと天野を見た。
「ってわけにもいかないし、良太さん、忙しいから。船岡さんとも話してみますよ、俺も」
「そうですね、それはお願いします」
青山プロダクションの前で良太を降ろすと、天野の車は走り去った。
自分の部屋に戻り、猫たちのお出迎えを受けながら、工藤は帰ったのだろうかと良太は隣へのドアを見た。
猫たちにご飯をやってから、気になってドアを開けてみたが、明かりはついていなかった。
まだ帰っていないのか、或いは高輪に行ったのかもしれない、と良太はドアを閉めた。
最近ジムにも行く余裕がなかったらしいし、ゴルフはあくまでも接待だ。
さっきの電話はあまり面白くない切れ方だったことをまた思い返して、良太は何となくそぞろ寒いような空虚な気持ちになった。
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