「何かあったんですか?」
良太が眉を顰めているのを見て、天野が聞いた。
「え、いえ、社長が帰ってきたみたいで、仕事に差し支えないようにしろとかって」
「ほんとに厳しいんですね。この仕事が決まった時、船岡さんに言われましたよ。業界じゃ鬼って呼ばれてる工藤さんには、認められなくともダメ出しされるようなことのないように、くれぐれも集中してやれって」
良太は苦笑した。
「俺も、入社したばっかの時は、ちょっと下手だってだけで、主役降ろしたりするから、ニンピニン、って言ってやったもんです。でもまあ、それもこれもきっちり人を見てるからなんだって、ようやくわかってきましたけど」
「そんな厳しい人の下でよく続いてますね、良太さん」
「厳しいっていうか、人の顔を見れば文句ばっかのオヤジですからね、俺、うちの事情で四年の時面接してほぼすぐに研修どころか初っ端から独楽鼠のようにこき使われて、もういい加減、卒論も無理かもとか思い始めてたんだけど、社長が、卒業もできないやつは即刻クビだとか言うもんだから、卒論やるっきゃなくてあの頃は社長への反骨精神で乗り切ったというか」
「なるほど、さしずめわが子を谷に突き落とすライオンってやつか」
天野はフーンと頷きつつ言った。
「そんなかっこいいもんじゃないですって。ただの昭和なオヤジなだけで。今時の子に怒鳴り散らしたってパワハラなだけだって言っても、今更変わりませんからね、人のキャラなんか」
天野は笑い、「でも工藤さんはやっぱ一目置かれているみたいですよ、船岡さんも工藤さんのことをすごくリスペクトしてるし」と言う。
「社長の方こそ、船岡さんのことはそれこそ一目も二目も置いてるみたいですよ。天野さん、船岡さんがついてくれてよかったみたいなことを言ってましたもん」
「そっか、じゃあ俺も工藤さんに降ろされないように、頑張らないと。でも、良太さんにもポカやってダメ出しされないようにしないと。実は怖い人ですもんね」
天野は真面目な顔でそんなことを言う。
「ちょっとそれ、大きな誤解ですからね? 俺はそんな大それた人間じゃないですよ。あの時は、ほんとトンデモ俳優さんだったんですから」
焦った良太が懸命に否定すると、天野は笑った。
「ほんと、いいなあ、良太さん、俺、好きだなあ」
さらりと言う天野の顔を見て、良太は一瞬固まった。
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