月澄む空に82

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「やめてくださいよ、俺、俳優でも何でもないし、ファンなんて」
 良太は天野の言い草に呆れて否定する。
「いやあ、現場見てればわかりますよ。良太さん来ると空気が変わるっていうか、何かっていうと良太さんだし、今思い出しても、やっぱあいつら許せない。良太さんが必死で守ろうとしているものをぶち壊そうとしたやつら」
 言葉は静かだが、そのきつい眼差しからも天野の怒りははっきり良太にも伝わってくる。
「まあ、事件は何とか片付いたんですから、我々はあの人たちのことはなるべくうっちゃって、撮影に専念しましょうよ」
「きっちり片付いたんですか?」
「ああ、容疑者たちはおおかた容疑を認めているみたいですし、あとの裁判は小田弁護士にお任せしてます」
 そういえば加藤さんたちに連絡取って、どこかでお礼の飲み会でも一席もうけないとって思ってたんだ。
 良太は撮影スタッフの手伝いから事件の調査や警護までしゃかりきになって動いてくれた男たちの顔を思い浮かべる。
 今も檜山匠の警護は引き続きやってくれている。
「そういえば今年、プロ野球は混戦状態ですね。昨日、沢村選手がホームラン打って、また三冠王に近づいたみたいですけど」
「そうなんですよ、ペナントレース、最後までわからないって感じで」
 沢村はまた二冠は決まっているようなものだが、スワローズの山本選手とのホームラン王争いが熾烈で、沢村が打てば山本が打つので決着はまだつきそうにない。
 それとは別に沢村から先週、どこかで話したいことがあると言われているのを思い出した。
 おいおい、一体今度は何だよ?
 直ちゃん情報だと、沢村は佐々木の母親淑子にどやしつけられながらもたまに茶席などに顔を出しているというし、直子曰く、「あれは気に入られている証拠」らしい。
 だったら佐々木さん本人とまた何かあったのか?
 良太は一体今度はどんな相談ごとなのかと、気が気ではないのだ。
「良太さん? 考えごと?」
 天野に言われて、良太ははっと我に返る。
「あ、いや………」
 ハハハと良太は空笑いする。
「来月あたり、都合のいい日教えてください。うちで引っ越し飲み会やりましょう」
「あ、来月ですか?」
 良太は携帯を取り出してスケジュールを確認する。
「そうですね、とりあえず三日木曜、十三日の日曜と十四日の月曜、ですか、今のところ」
 来月は十一日金曜から一週間、工藤はまたドイツ出張のはずだった。
 と、手に持っている携帯が鈍い音を立てて震えた。
「あ、ちょっとすみません」
 電話は工藤からだった。
 名古屋から戻ってきたのだろうか。
 良太は立ち上がって隅の方に向かう。
「はい、お疲れ様です」
「今、どこだ?」
「あ、えっと、南青山の店にいて、天野さんと」
「天野と? 一体何なんだ?」
 何だか荒い口調で工藤が聞いてくる。

 


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