花を追い22

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「あ、すみません、ワイン、追加オーダーしますか?」
「うーん、どっちかっていうと、もっとくつろげるところがいいな。上に部屋とって、一緒に飲まない?」
「は?」
 宇都宮が立ち上がったので、良太もそそくさと立ち上がって伝票を探すが、テーブルにみあたらない。
「ああ、ここは気にしなくていいよ、俺が誘ったんだし」
「え、でも……」
 良太はようやく、相談があると言われたのに、逆に良太の相談のようなことになってしまったと当初の目的を思い出した。
「あ、そういえば、俺に何か相談っておっしゃってましたよね、何か逆に、俺の相談教室みたいになってしまって」
「そう、そうなんだ、相談があったんだ。てことで、上、行く?」
 茶目っ気のある表情で、宇都宮が良太を見下ろした。
「え、いやあの」
 良太は慌ててスマホを取り出した。
 時間は九時近かった。
「実は明日の打ち合わせの資料、作らなきゃならなくて、また、ご連絡します」
 確かに明日は沢村の件でプラグインの藤堂や佐々木らと先方へ打ち合わせに行くことになってはいたが、資料は既に作成済みだった。
 最近タイピングの速度が上がってきてると思うのは気のせいではないだろう。
 いろんなスケジュールをこなすために時短できるところは良太の潜在意識が勝手に時短しようとしているのだ。
 ワインの一本くらいで酔ったとは思えないが、妖し気な瞳の色が気になって、宇都宮の誘いが冗談とも何ともつかないと良太の理性の奥の方で警鐘が鳴っている気がしたからだ。
「そっか、残念」
「あの、よろしければお送りします」
 そういえば今更だが、マネージャーも既に返してしまっていたようで、宇都宮は一人だ。
「それはありがたいな。良太ちゃんと少しでも一緒にいられる」
 ははは、とどう返したものかわからず良太はまた空笑いした。
 エントランスに車を回すというのを、宇都宮は良太と一緒に駐車場までついてきた。
「宇都宮さ…」
 ロックを解除して後部座席のドアを開けようとした良太だが、宇都宮は自分で助手席に乗り込んでいる。
「へえ、良太ちゃんの? いい車だな」
「まさか、会社の車です。まあ、ほとんど俺が乗り回してるんですけど……」
 エンジンをかけると、宇都宮は勝手にナビを捜査して目的地を表示させてしまう。
 ナビは御殿山あたりを示していた。
 うわ……宇都宮さん酔ってるのかな。あとで削除しておかないと。
 こんな大物人気俳優の家をそのままナビに残しておくわけにはいかないと、良太は内心焦ったが、宇都宮は「うーん、ナビシートでみる夜の景色ってのもいいもんだな」などと口にしてなんだか陽気そうだ。
「四月も、もう春も終わりか。東京にいると季節の感覚がなくなるよな」
 夜の街に目をやりながら、宇都宮がぼそりと言った。
「やっぱり故郷のがいいですか。釧路でしたっけ」
「そうだね、時々帰るといいとこだと思うよ、田舎も。だが、十八で上京してもう二十何年だ。とっくに田舎で暮らした時間を超えたしね、時々帰るからいいとこだと思うんだろう、きっと。今の俺の居場所はこの街だ」
 じんわりと胸の奥に響くような言葉だった。

 


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