月澄む空に114

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 だけど。
「だけど、君塚さんが」
「だから、あんなへべれけなやつの言うことなんかまともに取るんじゃない!」
 工藤は声を荒げた。
「へべれけだったからって、言ってることはマジなのかも知れないだろ!」
 良太も負けじと声をあげる。
 その時工藤は、ああ、そういえば、と、君塚が恋人に立候補とか何とか喚いてたことを思い出した。
 それでこのバカは拗ねて、さっきも飲みの誘い断りやがったんだ。
 工藤はイライラとグラスに酒をまた注いだ。
「ったく、あのな、君塚は、上から経費の上乗せを断られて腹立てて管巻いて、憂さ晴らしがしたいだけだ。制作部長に愚にもつなかいやつがいて、でかい会社だと思うようにいかないことの方が多いからな。あいつはあれで鋼の心臓の持ち主だから、まだまだ上にのし上がるさ。紺野さんもだから目をかけてる」
 そうなんだ、とは半分は納得するものの、工藤は人の、特に恋愛感情には疎いからな、と半分はまだ良太の中でモヤモヤが晴れない。
 第一、俺がニューヨークってことは決まりなら、工藤と離れることも決まりってことじゃん。
 沢村が佐々木さんを置いて行くのが不安になったとしても、やっぱり二人は恋人だろう。
 でも俺と工藤はそういうんじゃない、離れたらもう終わりって気がする。
 君塚さんは、あれ、酒に乗じた本音かも 知れないし、君塚さんじゃなくても、工藤の前にどんな人が現れたっておかしくない。
 俺、工藤いなくてこれからやっていけるんだろうか。
「わかりました。俺は向こうで沢村と仲良くやっていくんで。じゃあ、俺、寝ます」
 良太はどんよりとした表情のまま、自分の部屋に向かう。
「だからちょっと待てと言ってる!」
 猫の子のようにTシャツの後ろ首のあたりを掴まれて、「ちょっ、何すんだよっ!」と良太はバランスを崩して、後ろ向きのまま工藤にぶつかった。
「お前は何をまだグダグダと考えてるんだ。そういう顔をする時はどうせろくでもないことだろうが」
「あんたにはろくでもないことかもだけど、俺はろくでもあるんだよっ!」
 良太は振り返りもせず言い返す。
「だいたい、沢村と仲良しこよししてる暇なんかない。たった三カ月の研修期間のうちにやることは山ほどあるだろうからな。だいたい、移動に慣れていない猫なんか連れて行くより鈴木さんにでも頼んだ方がいいぞ」
「は? 三か月?」
 良太はぼそりと口にした。
「来年の四月くらいからがいいだろう、こっちの仕事の兼ね合いもあるし、向こうでもパワスポなんかは特派員的な立場でできるだろうしな」
 三か月。
 良太は心の中で繰り返した。
「何で最初から三か月って言わないんだよっ! 俺はてっきり……」
 良太は工藤に抱えられている状態で喚いた。
「バカか。どうしたって三か月が限度だろう。それ以上お前を貸し出している余裕はうちにはない。秋山の手を借りるとしても森村だけじゃ、仕事がパンクする」

 


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