三作目となる千雪の小説老弁護士シリーズの映画化は単なるシリーズもの、というだけでない、一作ごとに前作とは全く異なった意外性を持たせ、マンネリ化することを避けてきた。
今度は一体どんな趣向を凝らすのか、あるいは今度はどんな俳優を使うのか、というのがマスコミの注目するところだ。
青山プロダクション所属俳優、志村嘉人が老弁護士役の多喜川誠とW主演となる設定で一作目から出演している。
映画にヒロインかゲストに起用された女優は売れっ子になる、などという噂もまことしやかに囁かれていたりする。
お陰で今回、映画の噂が流れる頃には、新人タレントを抱える各事務所などから出演希望者が殺到した。
それで調子に乗ったのか映画のスポンサーである製酒メーカーが青山プロダクションとタイアップでオーディションを行い、合格したのが映画に起用された新人南沢奈々だ。
明るい、可愛い、元気いっぱいの十七歳の高校生で、既にスポンサー企業の清涼飲料水のCF撮りも始まっている。
千雪が青山プロダクションに着くと午後八時を回っていた。
長袖のシャツを羽織っているが、部屋に入るとしっかりエアコンが効いていて、汗もすぐ引いていく。
「ああ、おそーい」
すかさず駆け寄ってきたのはアスカだ。
「何飲む?」
「ほな、ビールもらおか」
青山プロダクションビルの五階は、バーカウンターも備えられた贅沢なレセプションルームになっており、ちょっとしたパーティから接待などにも使えるようになっているが、大抵年一度、年末に業者を招いて慰労のための忘年会以外滅多に使われることはないから、ここでパーティをすること自体初めてのことだ。
言い出しっぺはアスカだが、今回珍しく志村が奈々のお披露目もあるからと工藤に進言したことで実現したのだ。
千雪は出迎えたアスカのマネージャー秋山にちょっと頭を下げる。
志村や彼のマネージャーの小杉、それと既に打ち合わせで顔を合わせている奈々や、そのマネージャーの谷川、そして青山プロダクションから独立した小野万里子や嘱託カメラマンの井上俊一といった馴染みの顔もいる。
だが、すぐに自分を凝視している広瀬良太に気づいた。
「あの時、助けてもらったのに、俺、お礼もできなくて、あの…ありがとうございました」
慌てて携えたビールを千雪に渡し、少々気後れしながらも良太が頭を下げる。
目線がほとんど変わらない。
相変わらずガリガリに痩せているが、野球部のエースだった頃と比べてどこかしら妙に艶めいて感じるのは、仕事柄だろうか。
「ああ、助けたいうほどのことはしてへんけど、覚えててくれたん?」
「そういえば、良太が喧嘩に巻き込まれて倒れてたの助けたの、ユキだったんだね」
アスカが二人の間に割って入る。
どうやら最近世の中を騒がせた、例の事件と良太は無関係ということになっているらしいと、千雪も納得した。
「いやほんま、ようなってよかったわ」
良太の肩越しに工藤の姿が眼に入った。
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