良太の周りで、何か大きな波がやってきて全てを流してしまうような、そんな思いが徐々に大きくなっていくような気がしていた。
そして良太自身もまたその波にのまれようとしている。
その波は工藤やこの青山プロダクションにとっても何かしら変化をもたらすのだろうと思われた。
大きな波の後にどんな結果が待ち受けているのか、不安だけではなくそこには何か光のようなものも見え隠れしているのだが。
出張から戻ってくる工藤を待つばかりだった良太が、自分から工藤の元を離れなくてはならない、そのことだけを考えるとため息しか出てこない。
「良太さん、時間決めて、英語タイム、やりますか?」
英会話スクールに通う時間もないし、通わなくても、ここにネイティブな英語を話すアメリカ人がいるということで、森村と良太は一日のうちで数時間英語だけを使うことにした。
「そら、頼もしいわ。モリー、まるでこういうことがあるために青山プロ入ったみたいやな」
千雪が四月から使うアパートのことで連絡してきた際、森村と英会話していることを良太が話すと、千雪はそんなことを言った。
アパートには家具もそろっているので、衣類や身の回りのものだけ持って行けばいいという話だった。
「良太が向こうにおるうちに、遊び行くわ」
気楽そうに言って、千雪は電話を切った。
部屋はたくさんあるらしく、一、二週間良太のお供をする森村もアパートで過ごすのを今から楽しみにしている。
無論、良太も研修を楽しみにもしているし、何より、沢村のMLBでの活躍をもしかすると間近で見られるかもしれないことが嬉しかった。
佐々木オフィスでは一年かもしかすると二年ニューヨークに事務所を移すことになるかも知れないということで、週一くらいでジャストエージェンシーのデザイナー美紀が空気を通す目的もあって、オフィスに通ってくれることになったらしい。
社長の春日はいよいよ佐々木が世界に進出するのだと自分のことのように張り切っている。
佐々木家は今まで通り仲田が通ってくれるし、何かの時には春日が駆けつけると約束を取り付けた。
「今までも別に暮らしていたわけやし、そう心配してもしゃあないんやけどな」
佐々木がつい口にしたせいで、手塚医院の稔だけでなく、院長が定期的に連絡を入れるとまで言い出した。
「まあ、うちのオフクロの方が俺が行くよりまだましだろうし」
稔は再婚こそしていないが、元奥さんと息子とは非常にいい関係が続いているらしい。
「だが、セキュリティだけは考えた方がいいぞ」
そういう稔の意見もあり、この際、佐々木はセキュリティ会社と契約をすることにした。
「転ばぬ先の杖、ってやつだからいいんじゃないか?」
プラグインで佐々木や藤堂とのミーティングの際、藤堂が言った。
「でもあれだよね、しばらくこんな美味しい鰻も食べられなくなるよね」
お昼に藤堂が出前を取ってくれたのは上等な鰻弁当だ。
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