ACT 3
良太の心にわだかまりを残したまま、工藤は東京に戻ってしまった。
だが良太は最後のパーティが終わるまでここにいなくてはならなかった。
海棠役の流とヒロインを慕う青年佐原が森でヒロインを探すシーン、ヒロインが池に浮かんでいるのを見つけるシーンの撮影が終わり、ロケは無事終了した。
「じゃね、良太、あと、よろしく」
アスカと秋山も次の仕事が入っているため、撮影が終わると即行で東京に戻った。
四時頃から、スタッフが借りているコンドミニアムでバーベキューパーティを企て、良太はスタッフとともに準備や後片付けに追われた。
工藤と入れ違えで撮影のために現れた井上もちゃっかりパーティに加わり、良太よりも手際よくパーティを仕切ってくれた。
「ねえ、工藤さんいつ帰っちゃったのよ?」
こちらもイラついている良太にあたっていた黒川は、「そういえばあの超美形の子、こないの?」などと良太に聞いてくる。
黒川はカフェで見た千雪のことを言っているらしい。
本当をいえば、千雪もこの場にいてもよかったのにな、と良太は黒川に言えないのが何だか悔しかった。
パーティも終わり、片付けを済ませた良太はすっかり疲れきってフラフラコテージへと歩いていた。
何気に森のほうに目をやった時、良太は何やらうごめく影に気づいた。
何だろう、と思わず目を凝らすと、影は二つ。やがてそれが重なり合う。
え、と思って目を離せないでいる良太は、木陰から現れた月明かりでその顔が誰であるか気づいた。
「千雪さん?」
しかも大きな影に千雪が隠れる。
千雪の体が抱きしめられ、やがて千雪も大きな影に腕を回す。
いけないと思いながら良太は動けない。
それは作り物ではない、さっき撮影されたシーンも凌駕するほどぞくぞくする怪しく魅惑的なものだった。
と、良太はいきなり後ろから目を覆われ、わっと喚きそうな口も塞がれる。
「デバガメすんじゃねえの」
井上の声だ。
「脅かすなよ」
良太は井上に引っ張られるようにコテージへ向かう。
「飲みなおそうぜ」
ちょうど井上はコンビニで焼酎やつまみを仕入れてやってきたところだった。
「喧嘩して千雪が怒って雲隠れしたんで、京助のやつ、必死こいて探してたんだ」
「ああ、それで」
なるほど、と思う。
あの時、電話を切った相手は京助なのだろうと良太も思い当たる。
「春に向こうの大学の院生が何人かきてさ、これまたいい女があけすけに京助に言い寄ってやんの」
「何であんたが知ってんだよ」
紙コップに氷を入れ、焼酎を注ぎながら、良太は聞き返す。
「学部の懇親パーティだかで、牧村さんから千雪経由でカメラマン探してるっていわれて、あいてたから行ったのよ」
井上はあっという間に一杯目を飲み干し、煙草に火をつける。
「で、今度は京助がアメリカ出張で帰ってみたら千雪がいないと」
良太は笑う。
「それで慌てたんだ、京助!」
傲岸不遜な京助の態度を思い出して、良太は内心ざまあみろと思う。
「まあな。千雪、怒ると怖ぇからな。京助のやつ俺にも聞いてきたから、ここまで俺を乗せてくるって条件で、もったいぶって教えてやったのさ」
「俺、教えてまずかったかなと思ってたんだけど」
良太がすまなそうな顔をすると、井上はガハハと笑う。
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