夢見月60

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 いよいよニューヨークに発つのを明日に控え、良太はスケジュールや、日本にいるうちにやっておかなければならないことの確認で、朝から忙しくしていた。
 にもかかわらず、やたらあちこちから携帯に電話が入った。
「良太ちゃん、今日、オフィス寄ろうと思ったんだけど、時間なくてごめんね!」
 わざわざ連絡をくれた奈々に、「俺のことはいいから、撮影、がんばって」と言って携帯を切った途端、今度は紗英だ。
「明日だったよね? 気を付けてね! モリーも一緒だっけ? あ、撮影始まっちゃう、じゃ」
 携帯が切れると、「だからわざわざかけてこなくても」と言ってすぐ今度はラインだ。
「気を付けて行ってきてください! 帰ってきたら飲みましょう!」
 天野もどこかで撮影のはずだ。
「良太ちゃん、明日からいなくなっちゃうんだよね! 早く帰ってきてね!」
 とは、大森美術の和穂だ。
「明日から向こう行くんだろ? 気を付けて行けよ」
 肇までがわざわざラインをよこす。
 お陰で確認作業が進まない。
「も、いい加減にしてくれ」
 と良太が呟いた矢先、今度は山内ひとみが電話をしてくる。
「明日だよね? 良太ちゃんがいないと寂しい」
「って、ひとみさん、確か、今パリじゃなかったですか?」
 だからわざわざパリからかけてこなくても。
 良太が携帯に出ている間にも、会社の電話に良太宛の電話が入る。
「あ、お世話になっております。ええ、明日から」
 携帯を切って会社の電話に出ると、NTVのプロデューサーからだ。
 そんなこんなであっという間に昼になった。
「しばらく日本のごはん食べられないでしょ? 今日は私のおごり」
 鈴木さんはそういって、やがてお使いから戻ってきた森村と三人で、うな重に舌鼓を打った。
「うっまーい! 日本にいてもなかなか食べられないですよ。ありがとうございます」
「ほんと、こんなうまいもん、向こうにないです」
 良太も森村も味わうよりかき込むように食べる。
 食事をしている間も良太の携帯が鳴るが、仕事以外の電話は後でかけなおすことにした。
 ラインのメッセージもあちこちから届いている。
「明日はお昼の便でしたっけ?」
 鈴木さんが聞いた。
「ええ、十二時過ぎのJALなんですけど、社長がビジネス取れっていうんで、俺はエコノミーで構わないんですけど」
 良太が言うと、「ビジネスなんて俺、初めて」と森村が嬉し気に頷いた。
「ゆったりできそうでよかったわね。向こうには何時に着くの?」
 鈴木さんはにっこり笑う。
「明後日の夕方です」
「空港からアパートまでタクシーとか?」
「向こうにいる父の部下が迎えに来てくれることになってるので、大丈夫です」
 鈴木さんの問いに、森村が頷きながら答えた。
「あらそう? それはよかったわ!」
 ほっとしたように言う鈴木さんに、「みんな、良太さんのことが心配なんですね」と言って森村がくすくす笑う。
「俺、幼稚園児かなんかと思われてる? はじめてのお使いみたいな」
 良太は苦笑する。
「ニューヨークもドイツも、お使いで前は俺一人でちゃんと行ってきたのにさ」
「それだけいろんな方とお知り合いになったってことでしょう」
 小首を傾げながら鈴木さんが言う。
「はあ。前に行った時も、誰かしら迎えに来てくれてたけど」
 そうだった。
 以前、工藤にいきなりニューヨークに行けと言われて一週間ほど行ったことがあるが、あの時も工藤の知り合いという人が空港まで迎えに来てくれたり、出かける時も車で送迎してくれたので、勢い込んでいた良太も何も心配することがなかったのだ。
 あの時は、何も考えなかったけど、あれってどういう知り合いだったんだろう?
 ハーフの日系人でサガワさんとか言ったっけ。
 ひょっとして、あの人も波多野さん関係の人だったのかも。
 今思うと、十分あり得ると思う。
 今回、迎えに来てくれるという波多野の部下というのはおそらく、工藤のガードをしている誰かに違いない。
 その時、携帯がワルキューレを奏でた。
「はい、お疲れ様です」
 北海道にいる工藤には、出る前に電話位しようと良太は思っていた。
「え、今夜戻るんですか?」
 心なしか良太の声が弾んだ。
 撮影が予定より早く終わったので、俳優陣もクルーともども東京に戻ってくるらしい。

 


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