夢見月62

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 その時、工藤のポケットで携帯が振動した。
 こんな時に無粋なと思った工藤だが、携帯を取り出してみると、MBCの制作部長からで仕方なく出てみると、案の定トラブルだという。
 工藤が電話をしている間に、九時になると良太に一言二言声をかけてそれぞれ少し名残惜し気に帰っていった。
「鈴木さんも片付けはいいですから、今日はもう」
 良太や森村と一緒に鈴木さんが片づけをしているのを見て、良太が言った。
「いいのよ。良太ちゃんやモリーは明日の用意もあるでしょ」
 あらかた片付けると、鈴木さんが帰り、「じゃ、明日、ここに寄ります」と森村も帰ったが、まだ工藤は電話中だ。
 何やら面倒な話らしいと、良太が工藤を見ると、工藤は携帯を保留にし、「もう上がっていいぞ」と言ってまた話し始めた。
「じゃ、お先に失礼します」
 良太はそう声をかけてエレベーターに乗った。
「ま、いっか。工藤の顔見られないで行くのかと思ってたから」
 もうスーツケースには必要なものはあらかた入れてあるし、明日持っていくものは準備はできていた。
 今日は猫たちと遊んでやったりして過ごすだけのつもりでいた。
「いいか、鈴木さんの言うことちゃんと聞くんだぞ」
 そう言い聞かせてから、猫たちの好きなおやつをそれぞれ食べさせる。
「お前らのようすは、鈴木さんにまた送ってもらうからな」
 はぐはぐと一生懸命食べている猫たちをしばらく見ていたが、風呂に入ってさっぱりして出てくると、良太は最近気に入っているクラブソーダを冷蔵庫から取り出した。
「何か面倒ごとがあったのかな」
 良太は顰め面で電話をしていた工藤を思い出した。
 俺いないと、こんな時、やっぱ工藤の仕事増えるよな。
 モリーが対応できないこともあるかもだし。
 俺が入社してからだって、もう何年か経ってるし、工藤も年取ってるわけだし。
 良太が三か月もオフィスを離れることがいまさらながらに無謀なような気がしてくる。
 だが、もう後には引けないのだ。
 ベッドに座ってソーダを飲みながら、工藤を心配しているうちにうつらうつらしていた良太は、「こら、良太」という声に、はっと顔を上げると、工藤が傍で見下ろしていた。
「あれ、電話終わった?」
「うたたねして風邪なんか引くなよ」
 ぼんやり工藤を見た良太も、工藤がバスローブなのに気づいて、とっくに部屋に上っていたらしいことに気づく。
「なんかさ、ただでさえ人手不足だし、何ならリモートで仕事もできるから、言ってくれれば」
「ふん、何を殊勝なことを言ってる。そんな暇あるもんか」
「何だよ、人がせっかく親切に」
 良太の抗議も無視した工藤はベッドに乗ってくる。
「ちょ、何やってるんだよ」
「明日、時間があれば成田に送って行こうと思ったが、制作部でトラブって、部長が泣きついてきやがったから、朝からまたMBCだ」
 だから何だよ、とでも言ってやりたいところだったが、良太も今回ばかりは悪態をつくのをやめた。
 じゃあ、朝、顔を見られるくらいなんだ。
 そんなことを思いながら良太は工藤の背中に腕を伸ばした。

 


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