ゆうされば21

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「だから、誰?」
「うーん、名前がね、わかんないんだけど、学内の人だよ。学部は違うと思うけど」
「年上?」
「うん、割と上っぽい」
「助教とか?」
「え、ひょっとして、その人が春奈ちゃんの父親ってこと?」
「じゃないかと思うのよ。ほら、卒業した次の年、春奈ちゃん生まれたでしょ」
「だよね、ちょっとびっくりした。奈美みたいな真面目な子がシングルマザーとかさ」
「別れちゃったのかな。だっていきなり清瀬市とかに引っ越しちゃったし」
 二人は品のいいワンピースのどこぞの奥様風、一人はパンツスーツのキャリア風、一人はジーンズにセーターでクリエイター風とそれぞれ雰囲気は違うが、奈美の同級生だろうおそらくアラフォーの女性陣は、そんな会話を繰り広げていた。
 東京近辺在住で、この展覧会のためにやってきたのだろう。
 にしても、子供ができたからって別れたんやろか、その男。
 ふざけたやっちゃ!
 千雪は心の中で憤る。
 或いは奈美はその男との交際を親に反対されて別れたあとで子供がいることに気づいて、一人で子供を産んで育てることにした、んやろか。
 いつの間にか女性陣の話は、自分の夫や彼氏や子供の話になっていたので、千雪は少し移動しながら絵を見ていった。
 大きさはまちまちだが、おそらく春奈ちゃんを描いたのだろう絵はたくさんあって、どれも幸せに満ちた空間を感じさせた。
 いくつか見てから千雪はふと八号の絵に目をとめた。
 人物がモチーフの絵が多く、春奈以外にも老若男女が描かれていたが、その絵は微妙に千雪の中で引っかかるものがあった。
 優しい風の中に向こうを向いている男性が描かれていた。
 なんだろう?
 デジャブ?
 顔はわからないが眼鏡をかけているおそらく若い男。
 もしかして、この人が奈美さんの彼、とか?
 そのうち、おしゃべりしていた同級生らしい女性陣は、展示されている絵を携帯で撮ったり、絵と一緒に撮ったりし始めた。
「撮りましょうか?」
 千雪が声をかけると、四人は一斉に千雪を凝視した。
「あ、はい、お願いします」
 クリエイター風の女性が我に返って自分の携帯を千雪に差し出した。
「じゃ、この絵にしよっか」
 四人は百号の絵を挟んで二人ずつ並んだ。
 千雪は少し下がって、数枚撮った。
「ありがとうございました」
「あの、失礼ですけど、モデルさんとか?」
 ワンピースの奥様風の女性が頬を紅潮させながら千雪に聞いた。
「いえ」
「クリエイターの方ですか? 奈美のお知り合い?」
 さらに女性は聞いてくる。
「まあ、その端くれです。たまたま奈美さんがいた花屋でギャラリーの案内状を見せていただいたんです」
 千雪はさらりと答えた。
「絵を見るのが好きなんで、暖かい、ええ絵ばかりですよね。皆さんは、奈美さんのお知り合いなんですか?」
 千雪がさり気に問うと、「同級生なんです、T美洋画科の」とクリエイター風が答えた。
「そうですか。寂しいですね。親しい人が逝ってしまわれると」
 そう口にすると、千雪の心の奥にある幼馴染江美子への思いがまた溢れそうになった。
 子供が生まれるのと引き換えのように命を落とした彼女のことは、千雪だけでなく同級生らにとっても大きな悲しみだった。
 そうや、もし親しい人が、愛している人がいきなり消えてしもたら、それも殺されたりしたら、半狂乱にもなるし、犯人への憎悪も図り知れんわな。
 そんな誰かがもし、春奈ちゃんを誘拐して殺したんが杉浦やて突き止めたら、殺しても飽き足りない思うやろな。

 


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