「おう、モリーか。どうだ? 仕事は慣れたか?」
平造は元気印で人懐こい森村を気に入ったようで、破顔しながら声をかけた。
「はい! いろいろなことをやらせてもらってて面白いです」
「そりゃあ、よかった」
そういえば、俺も入社当時は元気だけが取り柄でがむしゃらにやってたな。
平さんもあんな顔でいろいろ教えてくれたっけ。
ダメだな、俺、こんなんじゃ。
「じゃあ、平さんもいることだし、お昼、美味しいお弁当取りましょうか?」
鈴木さんの提案に異を唱える者はいなかった。
窓際の大テーブルを四人で囲み、平造の誕生会後の話で盛り上がった。
カンパネッラの吉川や杉田が以前より何かと平造のことを気にかけてくれるらしく、新しいメニューを作ったと言っては吉川が平造をレストランに呼びつけるか持って来てくれるし、杉田は杉田で貰い物ついでだからと言っては、菓子やら酒やらを持って平造をちょくちょく訪れるという。
「次は杉田さんの誕生会を予定してますから」
「あら、また軽井沢で?」
鈴木さんが聞いた。
「うーん、杉田さんご夫妻さえよかったら、こちらのホテルにまたご招待するってことも」
「今度は、私もぜひ参加させていただくわ」
松花堂弁当を食べ終えると、鈴木さんと平造はお茶を飲みながらまだおしゃべりをしていたが、良太が自分のデスクに向かうと、森村がその後を追った。
「結構ラッキーな収穫です」
森村がこそっと言った。
「佐藤製作所の会社で佐藤彰吾が出てくるのを待ってたら、ちょうどエントランス前の車に乗るとこだったみたいで、出てくる佐藤とわざとぶつかったんです。いや、あんなにうまくいくとは思わなかったけど、迷子のガイジンの振りして英語で捲し立てたら、日本人て逆に引くんですよね。スーツのポケットにキャラメル型の盗聴器放り込んで、車を尾行すると、どっかの別荘に着いて」
早口で小声で森村は続けた。
「うまい具合に門とか塀とかなかったんで、ばっちし、窓の外から聞こえました」
彰吾は秘書らしき女性を伴っていたが、彰吾は女性を真澄と呼び、森村が聞いているのも知らず妻の朋美が行方をくらましたことを話し始めた。
「あの女、早いとこ死んでくれればいいのに」
「バカ言え。俺が社長になるまでは朋美にはまだ妻でいてもらわないと。ったく姿をくらますとか姑息なマネしやがって」
「どこ行ったのよ?」
「それがわからねんだよ! 今、探させてる。それよりジジイにとっととくたばってもらわないと。下手なことをしゃべってもらっても困る」
「しぶといわね、おじいちゃん」
「それより、大丈夫なんだろうな? 滝沢の方は」
「大丈夫よ。バッチリ、使い込みをした裏帳簿を滝沢のパソコンに仕込んでおいたから」
すると彰吾は運転手らしき男を呼びつけて、「君塚さんがこれから来る。ちょっと周りを見回ってこい」と言ったところで、森村は一旦窓から離れた。
それらは音声データでたった今、森村が良太のパソコンから良太にイヤホンで聞かせたものだ。
「何コレ。ものすごい収穫じゃん。証拠能力はなくても」
良太は言った。
「次もまたすごい収穫だから聞いて。黒塗りのベンツとか、反社会勢力ですって宣伝してるような車で乗り付けたのが黒いスーツの男三人」
森村は次のデータを再生した。
「君塚さん、ご足労いただきまして申し訳ありません」
彰吾の声がした。
「例のものはこちらに」
そこで森村は窓から覗いて、紙袋から君塚らしき男が札束を取り出すのを見た。
「足がつくようなことはないだろうな?」
「もちろんです。そこはご心配なく」
まるで下手なドラマを見ているような内容だ。
「滝沢が使い込んだ使途不明金ってことになっているんで」
「フン、頼むぞ」
そこで君塚ら三人は別荘を出るらしかった。
それからしばらく二人のやり取りを聞いていたが、適当なところで切り上げて森村は別荘を後にしたという。
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