「もちろん、君塚の車にGPSつけといたんで」
森村は良太にウインクしてニッと笑った。
黒塗りの車が向かった先は、十階建てのビルで、株式会社KCC。
良太がネットで検索したところ建設会社となっていたが、元々は上田市にあった中山組系暴力団君塚組が解散した後に会社組織として改名したものだという。
社長の君塚隆造は先代君塚組の長男で、次男、三男とも役員として会社に所属しているらしい。
「ここまで来ると超ラッキーで、サングラスとリュックで旅行者の振りして会社の前に止まっていた車の横ですっころんで見せて、GPS回収しました。やっぱり英語で捲し立てると、怖そうなオッサンでも引きますね、日本人て」
それを聞くと、良太はさすがに大きく溜息をついた。
「モリー、それ、やり過ぎだから。頼むから危ないマネはやめてくれ」
すると森村は肩を竦めて、「Copy」と言った。
「とりあえず、この情報、加藤さんにも伝えておいた方がいいな。もちろん、ニュースソースは明かせないが」
「そうですよ、やつら、朋美って人を探しているみたいだし」
二人がボソボソとやり取りをしているところへ、小田事務所の安井小百合が現れた。
「お久しぶりです、お世話になります」
良太は立ち上がって安井を出迎えた。
髪をきっちりひっつめ、スーツでビシッと決めた安井は背が高いのでいつも低いヒールを履いている。
司法書士の資格があるが、主にパラリーガルとして小田のサポートをしており、ぱっと見は厳し気な雰囲気だが、口を開くとざっくばらんで姉御肌だ。
フレームレスの奥の瞳の色がブルーなのは祖母がドイツ人だからだという。
「平さん、久しぶり!」
「この度は御厄介になります」
小田事務所の面々とは工藤がこの会社を興した頃からの顔見知りらしい。
やがて二人がオフィスを出て行くと、鈴木さん、良太、森村はそれぞれ自分のデスクに戻ったが、良太と森村は、パソコンのラインでやり取りをしていた。
加藤にはニュースソースは明かさずにってことで、今の情報をラインで送った。
「ありがとう。よく、こんな情報手に入ったね」
一応、証拠能力はないものの音声データも送ったところ、そんな返事が返ってきた。
『佐藤朋美さんが巻き込まれている事件については、滝沢さんは濡れ衣を着せられたようだし、かなりきな臭いことになってきたけど、そっちは小田さんに任せるとして、こっちとしては朋美さんと秋山さんの間に何かあるかどうか、なんだよな』
良太がラインで森村にメッセージを送ると、『それはわからなかった。彰吾は秘書と不倫しているようだけど』と森村が返す。
『何か、秋山さんから聞き出すことができればいいんだけど』
『ですね』
夕方からはまた、ドラマ『今ひとたびの』のスタジオ撮影がある。
アスカも撮影に出向いているはずだ。
そこで秋山に話を振ってみるか。
頭の中でああだこうだと良太が考えあぐねていた時、電話が鳴った。
「良太ちゃん、山根監督からお電話よ」
たった今考えていた『今ひとたびの』の監督だ。
「はい、お電話代わりました。お世話になっております。は? え? 小林先生ですか?」
またぞろ、山根は面倒なことを言ってきた。
今日の撮影シーンで、原作者の小林千雪に確認したいことがあるが、何とか顔をだしてもらえないかというのである。
ただでさえ、ドラマも映画も関わり合いになりたくないという千雪は、どうしてもな何かがない限り、撮影に顔を出したり口を挟んだりすることはない。
先日の、千雪のファンだというゲスト主役である竹野紗英との対談も、良太が千雪を宥めすかして実現させたのだ。
「はあ、しかし、先生は気難しいので、果たして来てくださるかどうかわかりませんが、とにかくダメモトで聞いてみますね」
電話を切ると、またしても良太は思い切り溜息をつく。
「どうかしたの? 良太ちゃん。トラブル?」
心配した鈴木さんが聞いた。
「いや、トラブルじゃないっすけど面倒ごと? 千雪さんを連れて来いって。あの人、撮影とかに顔出すの、絶対嫌って人だから」
思わず天井を仰ぎ、どうやって千雪を引っ張って行こうと苦慮する良太に、鈴木さんが言った。
「あら、そうなの? でも大事なご用なら千雪さんもきっと行ってくださるわよ」
時折、良太は鈴木さんにはほんとに脱帽してしまうことがある。
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