ドラマの老弁護士シリーズは、老弁護士役を端田武、若手弁護士を大澤流、青山プロダクション所属の中川アスカもこれに出演しているが、今回、六条渉を山内ひとみでドラマ化することになっていた。
「そう! 天野さん、さっき会ったら何か四ノ宮役、印象がぴったしって感じで。一緒に会ったから後で千雪さんにもお伺いを立てますけど、どう思います?」
すると秋山はちょっと逡巡した。
「うーん、そうだね。作品も悪くないし、俺はいいと思うよ。ただ……」
「やっぱ、船岡さんがうんと言いそうにないですか?」
眉を顰めて良太は聞いた。
「いや、それとは別の話で。うーん……」
「え、何かあるんですか?」
「まあ、仕事だし、とは思うんだが、昔の嫌なことを思い出させるようで悪いんだが、良太ちゃんがドラマに出た役、覚えてるだろ?」
まさかそんな話に飛ぶとは思わなかったので良太は、一瞬、戸惑った。
「忘れられたらいいんですけどね」
CMはまだしも、ドラマに出たことについてはもっと思い出したくもない。
「あのピアニストの役はオーディションはやったものの、ほとんど鴻池の独断で鴻池の息がかかった阿部由治に決まったらしい。結局、鴻池の企みのためにだけ選ばれたってやつだから、今は俳優から足を洗ったらしいが」
「はあ」
正直、阿部がどうなろうと、良太には何の関係もないことだ。
「まあとにかく、鴻池がその阿部を降ろして結局良太ちゃんになっただろ? それも鴻池の企みだったんだが、その時オーディション受けて、監督やプロデューサーもこいつだって決定しかけてたのが、実は天野だったんだ。スカイプロモーションも自信もって天野を売り出そうとしてたとこだった」
「ウッソ……………」
良太は絶句した。
まさか天野と自分との間にそんな因縁があったとは。
鴻池物産は日本を代表する大企業の一つである鴻池産業の傘下にあり、当時専務取締役の鴻池和路が広報部を我が物顔に動かしていた。
しかも工藤にとっては大学からMBC時代の先輩にあたり、鴻池は工藤をいたく可愛がっていた。
今現在鴻池物産の社長であり、将来は鴻池産業のトップに立つことが既に決まっている鴻池は、当時工藤や良太を散々振り回したことなどとっくに忘れたかのように、相変わらず青山プロダクションのスポンサーだ。
「だからさっき、俺、睨まれたのかな」
良太はエレベーターの中での天野の視線を思い出した。
「え?」
「あ、いえ、そんな事情があったとかだと、断られる可能性大かなあ。まあ、ダメモトで打診してみますよ」
そう言ってから、良太はいよいよ本題を切り出した。
「あの、さっきちょっと聞こえちゃったんですが、佐藤さんて、ひょっとしてスキー場で会った人ですか?」
秋山はそれを聞くと、ふふんと笑う。
「どうやら何か知ってるね?」
そう返されて良太もハハハと笑う。
さすがに秋山だ、すぐに何か察したようだ。
「いや、何も聞いてるわけでは………」
「そうだね、詳しくは話せないんだが、その佐藤さんがちょっと事件に巻き込まれていてね、小田先生に紹介したんだよ」
「そう、ですか。あの、佐藤さんて、その、ひょっとして秋山さんの恋人とか?」
こうなったらとズバリ聞いてみた。
「ええ? いや、残念ながらそういう関係じゃないよ。彼女とはスキー場で会ったのが高校卒業以来だし、それに彼女結婚してる。まあ、その夫が難ありで彼女逃げてるんだけどね」
「そうなんですか? え、でも佐藤さんがもし離婚されたら、秋山さんも考えようとか……」
万が一のことを考えて良太はさらに突っ込みを入れる。
「何、もしか、工藤さんから何か言われた?」
秋山は苦笑する。
「ほんと、今は結婚とか全く興味がないし、第一、相手がいない。佐藤さんはほんとに単なる同郷のクラスメイトってだけだよ」
秋山の言葉はサラリとしていて、おそらく佐藤を恋愛対象としては見ていないのではと思われた。
「そうですか」
良太はちょっとホッとする。
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