春雷39

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 秋山と佐藤はただのクラスメイトだと、アスカに教えてやれば、アスカも元の強気なアスカに戻るのではないかと、良太は期待した。
「そういえば」
 秋山が珍しく困ったような表情を見せた。
「ここんとこ、アスカさんがちょっと情緒不安定なんだよ。良太ちゃん、何か思い当たることない?」
「え………」
 秋山さんは気づいてないんだ、アスカさんの心の内を。
「うーん………、ちょっとわからないなあ。さり気なく聞いてみましょうか?」
 良太は空々しいと思いつつ口にした。
「お願いできるかな。俺も聞いてみたんだけど、大丈夫の一点張りで」
 秋山は首を傾げた。
 あれほど周りのことはよく見えている人なのに、秋山は自分が対象だと全く見えなくなってしまうんだ。
 二人でスタジオに戻ると、千雪と山根監督が笑いながら話していた。
「問題は解決しました?」
 良太が声を掛けると、「ちゃんと小林先生の了承を得たから」と山根が言った。
「カメラマンの青年が貴船神社からの道で竹野さんを見たってところなんだけど、その直後で犯人ともすれ違った時に、たまたまシャッターを押していたってことで、青年が犯人に殺されるっていう設定にすれば、竹野さんの指紋のついたナイフが使われただけでなく、時間経過的にも竹野さんが容疑者として疑われる可能性が高くなるのではとね」
「なるほど。容疑が深くなるわけですね」
 良太も頷いた。
「管理官は完全に竹野さんを容疑者として断定するから、石渡警部もかなり窮地に立たされるわけやね」
 千雪としても全体の流れが変わるわけではないので、問題はないらしい。
 一通り話が終わると、次の撮影が始まった。
「なあ」
 撮影風景を眺めながら、千雪が良太に耳打ちした。
「何か、アスカさん、変やない?」
「わかります? やっぱねえ。ちょっと情緒不安定でここんとこ」
「何? 秋山さんと何かあったん?」
 良太は千雪を振り返った。
「え、知ってました? アスカさんの」
「いや、何となくや。やっぱそうなん?」
「ええ、アスカさんがね。でもまあ、何とかなりそうなんで」
「そ?」
「うーん、多分」
「良太の肩にかかっとるもんな、会社の命運は」
「またまた、やめてくださいよ、そうやってわざわざプレッシャーかけるの」
 ちょうど石渡警部であるアスカが管理官から容疑者である竹野演じる記者から自白を取れと命令されるシーンの撮影である。
 やがて海棠弁護士役の大澤が現れて、竹野との接見を要求するシーンへと続く。
 カットがかかったところで、良太は「送ります」と千雪を促した。
「小林先生!」
 ずっと山根と千雪が難しい顔で話していたため、声を掛けるのを遠慮していたらしい竹野が千雪を呼んだ。
「お疲れ様です。もうお帰りなんですか?」
「はい。頑張ってください」
 残念そうな竹野に会釈をしてから、千雪は秋山の横に座っているアスカを一瞥すると良太とともに駐車場へ向かった。
「監督の話、面倒なヤツじゃなかってよかったですね」
 走りだしたが、夜間工事のために少し先が渋滞していた。
「うん。やから別にわざわざ俺呼び出さんでもええのに」
「ええ? 監督としてはやっぱ、原作者の小説を勝手に変えることに抵抗ありますよ。山根さん、そういうとこ、きっちりした人だし」
「まあ、それはわからんでもないけど」
「そうだ、来春のドラマのキャスティングですけど」
 すると千雪は思い切り良太を振り返った。
「待て待て待て待て! 来春のドラマて何やね?」
「あれ? まさか聞いてないとか?」
「聞いてないもクソもないわ、今初めてやそんな話!」
「ええ、工藤さん、もう千雪さんに伝えたんじゃないのかよ、ったく、あの人は」
 良太は工藤の顔を思い浮かべながらグチグチと文句を言う。
「問題はそこやないやろ? ったく、また勝手に進めよって。ドラマて、何をやるんや?」
「検事六条渉シリーズです。主演の六条検事役は山内ひとみさんで企画は通ってますけど」
 やっと前の車が動き始めたので、良太はアクセルを踏んだ。

 


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