春雷40

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「あそ」
 どうでも良さそうに千雪は返事をする。
「刑事の四ノ宮健、ほら、さっきエレベーターで一緒になった天野右京で行こうと思うんですけど」
「もう、ほんま勝手にやったらええ」
「またそういう、投げやりな」
「エレベーターで会うたて、ああ、あいつ?」
 ようやく千雪は天野を思い出した。
「せやな、何や、雰囲気が四ノ宮っぽいか」
「あの四ノ宮って、どうみてもモデルは研二さんですよね?」
「フン、良太に当てられるやなんて、俺も先が見えとるな」
 千雪の言い草に良太はムッとする。
「だって千雪さん、大抵周りの人を登場させてるじゃないですか。最新作に登場する華道家って理香さんでしょ?」
「どうせ俺は創造力貧困やから」
「何、拗ねてんです? 絵だって大抵モデルがいるじゃないですか」
 自分で口にしてから、良太は、あ、と思い出してしまった。
「モディリアニの絵って、ほんとは工藤の部屋にあったやつでしょ」
「え?」
 その切り返しは千雪はそれこそ思ってもいなかったようだ。
「今朝、平さん来て、絵の管理の話してた時、言ってました。工藤の寝室とかは人に見せたことはないみたいだし」
「……へえ、そやったっけ?」
「今更ごまかさなくてもいいですよ」
 しばし車の中に沈黙があった。
「別に千雪さんを責めてるつもりはないですから。俺に気を遣ってくれただけでしょ」
 車は千雪のマンションのエントランス前で停まった。
「あんなあ………、言うても遥か昔のことやろ。しかも勘違いとかの問題やで?」
 千雪は言った。
「だから、千雪さんは何も………。要は工藤さんがってことだし。人の思いなんて他人がどうこうできないんだし」
「やから、工藤さん、今大事にしとるんは良太やで? 前に俺がどうとか言うてたんはジョークやんか」
 少し強い口調で千雪は言った。
「わかってます。工藤さんが俺のことを大事にしてくれているのも嘘じゃないって」
 だけど。
 時々、思い知らされることがある。
 例えば、工藤が危うく殺人の罪を着せられるところだったあの時、工藤が真っ先に連絡したのは千雪だった。
 そのことも千雪は何か工藤を弁明しようとしていたが、人は思いもよらぬ事態に陥った時、咄嗟に本当の思いが現れるんだと、良太は思う。
 もちろん、俺に連絡したところで、俺には何もできなかったかも知れないのはわかっているが。
「いんですよ。俺が好きなのは事実だからしょうがない。でもなあ、アスカさんには一方通行みたいのは似合わないし。千雪さんのことはアスカさんにとってアイドル的な存在だと思うけど、秋山さんのことはマジだと思うし」
「秋山さんもアスカさんファーストってより、オンリーや思うけど、お前、アスカさんにはて、何やね? 一方通行とか良太の思い込みやで?」
 千雪の台詞に良太は苦笑する。
「ですね、一方通行とまではいかないかもですけど」
「やから………」
「ほら、降りてください。俺またスタジオに戻らないと」
 車を千雪のマンションのエントランスに横付けし、まだ何か言いたげな千雪を遮って、良太は言った。
「お時間を割いていただいてありがとうございました」
 車を降りる千雪にそう言うと、ドアを閉めた。
 と、その時、良太の携帯が鳴った。
 森村からだった。
「どうした?」
「アスカさんが、控室から出てこなくて」
「え?」
 休憩に入ると、アスカがスタジオを出ていくのを森村も見たが、次の撮影に入る時刻になってもアスカが戻って来ないので、秋山がトイレで声を掛けてみたが返事がなく、森村が控室のドアをノックすると、しばらくして「ちょっと、待って」と言う声がしたという。
 ドアを開けようとしたが鍵がかかっていて、秋山もやってきて声を掛けるが出てこないらしい。

 


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