春雷37

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 途端、はあああ、と思い切り溜息をつく良太に、「何、俺、新人で売り出されるん?」などと千雪がからかう。
「勘弁してくださいよ、海千山千の名物マネージャーなんですよ、船岡さん」
「へえ。そういえば、良太、何で俳優やれへんの?」
「そっちはもっとカンベン! はい、眼鏡かけてください」
 次の階でエレベーターが止まると、良太は言った。
 ちょうどスタジオのドアが開いて数人が出てきた。
 休憩らしいと、良太は千雪とともに中に入り、山根監督を探した。
「あ、良太ちゃん、小林先生、ほんとご足労いただいて申し訳ありません」
 すると山根の方が二人を見つけて慌てて歩み寄った。
「お疲れ様です」
 山根は早速千雪を手招きして、話しだした。
「お疲れ様です~」
 森村がすかさず、コーヒーを持って山根と千雪、それに良太に手渡した。
「順調?」
「はい、順調です。監督がずっと千雪さんを待ってたくらいで」
「そっか」
 順調か。
 良太はスタジオ内を見回した。
 竹野は大澤や端田と話をしている。
 そういえばアスカは、と探すと、一人ぽつんと椅子に座っている。
「え………」
 これはおかしい、と良太は感じた。
 アスカと言えば大好きな千雪が現れたら早速やってくるのが普通だろう。
 それが何のリアクションもなく、ぼんやりって、これは大事件じゃん!
 良太は秋山の姿が見えないことに気づき、あたりを目で探したがいない。
 ひょっとして外に出ているのかも知れないと、すぐさまスタジオを出た。
 あたりをキョロキョロ探した良太は、少し離れた柱の陰に秋山を見つけた。
 近づいていくと、「佐藤さんはだから心配しなくていい。ちゃんとガードもつけてもらっているし」と言う声に、電話中なのだと良太は気づいた。
 良太は少し離れたところで、秋山の電話が終わるのを待ってから声をかけた。
「秋山さん、お疲れ様です」
 振り返った秋山は強張っていた顔をほころばせた。
「良太ちゃん、お疲れ様。どうした? 難しい顔してるよ。何か問題でも?」
「あ、いえ、あの、秋山さん、天野右京って知ってます?」
 とりあえず、仕事の話から良太は切り出した。
「ああ、若いけど実力派だよね。演劇畑では注目の俳優だね。ああ、最近、ドラマでもブレイクし始めてるな。加えてかなりなイケメンだしね」
 プラグインの藤堂に負けず劣らず、秋山の頭の中は業界のみならず情報が詰まった正に歩くデータバンクだ。
「彼がどうかした?」
「実はさっきエレベーターで出会ったんですけど、船岡マネージャーと一緒に」
「ああ、そうそう。もともと天野くんは実力派だったんだが、ここのところ名前が売れ始めたのは船岡さんがついてからみたいだね」
「そうなんですか、やっぱ船岡さんてすごい人なんですね」
「うーん、確かに人を見る目はあるよね。前の会社に嫌気がさしたってのは本当らしいけど、スカイプロモーションに移籍したのは天野くんの才能に惚れ込んだかららしいよ」
「へえ、そうなんだ、天野さんてすごいんですね」
 と似たようなことを言ってから、「語彙力が低下してるし、俺」と良太は笑う。
「ハハ、だがちょっと人気が出たからってやたら何でも売り出すんじゃなくて、仕事を吟味しながらじっくり育てるって言うのが船岡さんのやり方だからね」
「なるほど、だとすると、どうかなあ」
「何? 彼を何かでキャスティングしたいとか?」
「実はNTVで、来春放映予定の『検事六条渉』シリーズの『ひとりぼっちの烏』なんですけど」
「ああ、小林先生の新シリーズで六条さん最初の話だね。訳あり刑事の四ノ宮健役?」
 小林千雪の最新作もこの検事六条渉シリーズ三作目になる。
 老弁護士シリーズと並行して近年書かれている、切れ者の女性検事六条渉と警視庁捜査一課の刑事四ノ宮健が活躍するミステリーだ。

 


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