風そよぐ7

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 昨日は『パワスポ』の打ち合わせがあり、そして今日、良太は下柳とスタジオで制作に顔を出してきた帰り、工藤に電話を入れてみたところ、だったら迎えに寄れとの指令を受けて『田園』のスタジオに立ち寄っただけなのだ。
 良太の予測に反して工藤は『田園』の撮影に立ち会う回数が多いように、良太には思われて、そこもちょっと引っ掛かりがあるところなのだが。
 スタジオに顔を出した途端、わっという歓声が起きた。
「おお、良太ちゃん、いいところにきたじゃねぇか。今からみんなで飲みいこうってことになったんだ。おい、一人追加な」
 どうやらこれからくりだすらしい店に連絡を入れていたADに向かって、すでに出来上がっているのではと思いたくもなるような上機嫌で坂口がのたまった。
「おい、良太は俺の迎えに来ただけだ」
「オーっと、工藤、逃げようったってそうは問屋が卸さねぇぜ? 大体、たまには可愛い部下を飲みにつれてってやるくらい、当然だろう」
 渋い顔の工藤と目が合ったものの、どうやら坂口の誘いを断るなんてことはあり得ないらしかった。
「え、でも俺、車ですし」
 とりあえず軽く抗議をしてみるものの、「んなもん、タクシーってもんがあるだろ。車なんか駐車場に置いときゃいいって」で坂口に跳ね返される。
 宇都宮をはじめ、ひとみ、アスカ、秋山、竹野、本谷、脇を固める木島、相原、小日向ら撮影に参加していた俳優陣と、ディレクターの溝田とADの矢田、工藤、それに良太が加わって坂口が総勢十三名を率いて、御用達の西麻布のバーに向かうことになった。
 ひとみは飲みに行くからとマネージャの須永を返してしまったし、本谷のマネージャ浜野は他にも担当している俳優がいるらしく、粗相のないようにとか本谷に言い置いて良太と入れ違いにスタジオを後にした。
 本谷さんとこ大きなプロダクションだからか、大変そうだな。
 小さい会社でも、俳優らそれぞれにマネージャがついている自分の会社はまだマシなのかもしれないと良太は同情の目を向けた。
 タクシー四台に分かれたが、坂口が良太を引っ張って一緒の車に乗ったので、必然的に工藤が助手席に座った。
「工藤、お前最近付き合い悪くねぇ?」
 坂口が前に座る工藤に文句を言う。
「あんたみたいに要領よくないんで、貧乏暇なしなんですよ」
「なーに言っちゃって、この不景気にお前ンとこくらいだろ、みっちり仕事がいっぱいなんてぇのは」
「うちはご存じの通り万年人手不足なんで、余力なんかないんですよ」
「だったら少し仕事をセーブすりゃいいだろうが。何をあくせく生き急いでるんだか知らねェが、ちったあストレス発散させねぇと、早死にするくれぇがおちだぜ」
 そんな坂口の科白に、良太は心の中で頷いた。
 確かに、工藤は少し休暇を取るとか、した方がいいに決まっている。
「セーブしたくても、無理やり仕事を押し込んでくるあんたみたいな人がいるから、なかなかできないんですよ。あんたこそ、毎晩のように飲んだくれてちゃ、明後日ぶっ倒れるくらいが関の山でしょうが」
「ハハハ、ま、煙草はここんとこ何とかやめてんだよ」
「どのくらい続きますかね」
「お前こそ、少しは煙草、減らしてんのかよ」
「少しはね」
 そういえば、工藤が煙草を吸っているところをあまり見なくなった。
 鈴木さんも社長の灰皿に煙草が一本だけだったと、喜んで良太に教えてくれた。
 まあ、でも、忙しくなるとまた本数が増えるかもしれない。
 俺も、ぶーたれてばっかいないで、少しでも工藤の仕事を減らせるように頑張んないと。
 ファイト、俺! と良太は心の中で拳を握る。
「そういや、良太ちゃん、こないだグッドフォローだったって? 溝田のやつがえらく褒めてたよ」
「え?」
「何か、本谷が竹野にコテンパンにやりこめられてたところを、正義のミカタ良太ちゃんが、えいやーって収めてくれたから、そのあと撮影もスムースだったって」
 ああ、と良太は思い当たった。
「何ですか、その正義のなんちゃらって。ああいうときは美味いもん食べて一息つくのがいいんじゃないっすか?」
「それがなかなか、誰にでもできるわけじゃないんだよ。工藤、お前、いい部下を持ったよな。ちったあ感謝しろよ?」
「それが仕事でしょうが」
 坂口ににべもなく工藤は返す。
 ほうら、どうせ工藤なんかそんなとこだっつうの。
 よくやった、なんて、言うわきゃないじゃん。
「お前な、今時はやらねーぞ、そんな昭和なオヤジ!」
「そのまま、あんたにそのセリフ返しますよ」
 坂口と工藤が掛け合いをしているうち、車は坂口の行きつけのバーに着いた。

 


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