「気合を入れるのはいいが、お前はちょっと肩に力が入り過ぎる。力を抜いて向かえよ」
「はあ、わかりました」
これだとまた工藤がすぐ切ってしまうパターンだと察知した良太は、「朝飯、何でもいいから食べてくださいよ。コーヒーだけじゃなくて!」と慌てて付け加えた。
「ああ、わかったわかった」
案の定そこで電話は切れたが、いつものようにブチっとではなく、微かに余韻があったような気がして、しばし良太は切れた携帯の画面を眺めていた。
ベッドに入ると、樹々が光の渦を少し陰らせているせいで、カーテンの合間から日毎に欠けていく月が、細く空に浮かんでいるのが見えた。
何だかその顔は良太の明日からを楽し気に見下ろしているような気がした。
ニューヨークに来てあっという間にひと月が過ぎた。
ネットプライムでの研修は、プロジェクトチームに加わって実際に制作に携わり、常に頭を働かせて発言し、撮影シーンを動かしていくというもので、ぼんやりしていると置いていかれるため、良太の頭の中は英語でいっぱいになった。
それでも発言すれば何かしらのレスポンスがあり、それらのやり取りが面白く、しかもアメリカのドラマや映画で見たことのなる俳優もいたりすると、なおさらテンションが上がる。
失敗に終わったこともいくらもあるが、そんなことを悔いている間もなく、しかし緻密にプログラムは進んでいく。
チームには良太の他に日本人が一人加わっていた。
最初は日本人であることくらいを確かめ合っただけで、それ以上互いに話を深めるようなことはなかった。
内海愛菜と名乗ったその女性は、ネットプライムの社員で二年目だと言った。
おそらく良太よりも若いだろう内海は、最初から積極的に発言していたが、矛盾点を突かれて言い負かされることが多かった。
それに引き換え、良太の意見は面白い、やってみよう、と取り上げられたりして、たまにディレクターを唸らせることもあったりで、何となく徐々に内海に敵対意識を持たれるようになった気がしていた。
ジミー・ハドソンという気さくな若手の社員とは割と親しくなって、ランチを一緒に取ったりするようになった。
「アッパーイーストサイドに住んでるのか。リッチなんだな」
ジミーに言われて、「いや、知り合いの部屋を借りているだけだ」と良太が答えると、「僕はロスアンゼルスの出身で、伯父の家に居候しているんだ」とジミーは笑った。
UCLA出身で東京にも行ったことがあるというジミーは、コミュニケーション能力が高かった。
「時々ニューヨークなまりが出るよね? こっちに住んでいたことがあるのか?」
良太は笑って、「ニューヨーク出身の同僚に英語を教わった。今は東京の会社にいる」と答えた。
会社へは最初ニックに車で送迎してもらったりもしたが、今は地下鉄で三〇分通うのにも慣れてきたところだ。
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