「プレオープンには、ウイルソン氏所蔵の作品を披露することになっとるんや」
佐々木は楽し気に言った。
「へえ、それ、楽しみですね」
良太はその頃、またこっちにいる可能性あるかも、と先のことだが思いを馳せる。
「うちのギャラリーとも提携して、同じ作家の作品展を東京とニューヨークでやる構想もあるんだ」
藤堂が在籍する代理店プラグインのビルには三階四階にギャラリー銀河が入っており、オーナーはプラグイン代表河崎の姉美保子だ。
それからニックが良太を迎えにくるまでアートの話で場は盛り上がった。
良太が帰ると、「過保護だな、工藤さんも」と藤堂が苦笑した。
「まあ、仕方ないんやない? 秘蔵っこやし」
佐々木は言った。
「それにしても、良太ちゃん、何をそうこだわっとるんやろ?」
すると藤堂は、「ちょっと佐々木さん、借りるね」と沢村に断りを入れると、佐々木を引っ張って窓際へと向かう。
広いフロアなので、窓際まで行くとぼそぼそとした話し声ならリビングのテーブルまではとどくことはない。
「あれね、ちょっと根深いものがあるんだよ」
ニューヨークの夜景を窓の向こうに見ながら、藤堂は口を切った。
「よく良太ちゃんが言うてる、黒歴史いうやつ?」
佐々木が尋ねた。
「そう、あれね、まずCMなんか結果だけを見れば、我々側からすると実は大成功だったんだよ。アスカさんと一緒に出演しているタレントは誰だ、清涼感があるし、ぜひうちのCMにも起用したいとかって問い合わせが何件も入ったし」
「え、そんなんやったら、全然黒歴史とかやないん違います?」
少し驚いて佐々木が聞き返した。
「それ。元々決まってたタレントのほんとに撮影間際のドタキャンで、窮地に陥ってたところへ良太ちゃんがやることになって、しかもクライアントがスポンサーとなっているドラマにもちょい役で出ることになってたんで、そっちも引き続きイタリアでの撮影だったから良太ちゃんがやることになったんだが、まあ、初めてのドラマ出演で、うまくやれる方がおかしいくらいなところ、何回か撮り直しとかあったものの、良太ちゃんきっちりやり遂げてさ。これも放映されてからなんか、大物脚本家までが良太ちゃんはどこの事務所だって探し始めたとかってくらいで」
藤堂の話に佐々木は小首を傾げる。
「それやったら、何で黒歴史やなんて。ていうか、俳優でも行けるかもやないですか」
すると藤堂は大きく頷いた。
「これはおまけだけど、あの役には実はドタキャンしたタレントじゃなくて、若手実力派として舞台もこなしていた天野くんが有力視されてたりしたんだよ」
「ドタキャンしたタレントて、ひょっとしてスポンサー推しやったとか?」
佐々木が苦笑しながら言った。
「まあね、ちょっとめんどくさいわけがあるんだ、これが」
藤堂はもったいぶったように一旦口を噤む。
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