「お疲れ様です」
秋山が声をかけたところで、工藤はすぐに口を開いた。
「東洋商事のニューヨーク支社のプロジェクトだが、ここにきて紫紀さんが提示してきたプランが最終決定的になった」
工藤は鰻に箸をつけながら言った。
「はい、アスカさんのスケジュールはきっちり押さえてありますが」
秋山は答えて食べ終えたうな重に蓋をした。
「沢村っちがメインで、私がサブって感じでしょ?」
最後の鰻を飲み込んでからアスカが言った。
「ああ、美味しかった」
満足げにお茶を飲むアスカに目をやることもなく、工藤は続けた。
「宮下さんからも電話で打診してきたんだが、良太も起用することになった」
「え、良太も? まあ、ニューヨークにいるし、いんじゃない? 楽しそう」
喜んでいるアスカとは裏腹に、秋山が「良太ちゃん、それ、了承したんですか?」と怪訝そうに工藤に聞き返す。
「了承も何も、紫紀さんが旗頭になったんだ、やるしかないだろう。全くあの人は」
吐き捨てるように言うと、工藤は鰻を掻きこむように食べる。
工藤としてはあまり乗り気ではないことを秋山は見て取った。
「宮下さんのみならず紫紀さんがやりたがっているってことですか」
ぼそりと言ってから、「ああ、あれですか、パワスポの」と秋山は思いついた。
「そうらしい」
「え、こないだのパワスポ、良太と沢村っち、すっごくよかったよね!」
思い出してアスカも顔を上げた。
「そう、すっごくよかったんで、宮下さんや紫紀さんが、これだ、と思ったわけですね」
冷静に秋山が判断した。
「ええ、いいじゃない? あんな感じで二人が出てたら、みんな見るんじゃない?」
ふう、と息をついて秋山もアスカに同意した。
「最初は沢村にどうアスカを絡めていくか、だったが、そのすっごくよかった風な二人に、アスカをどう絡めていくか、ってことになった」
たったか鰻を食べ終えると蓋をして、工藤はお茶を手にした。
しばし沈黙があった。
「なんでそんな面倒そうに考えるのよ。いいじゃない、あのまんま、MLBの沢村と良太Pでおしゃべりすれば。あたしもだから中川アスカのままで混じればさ」
沈黙を破って軽くのたまったアスカを、秋山と工藤が同時に見やる。
「だから、何かこういう役で、みたいなことをすると、良太は役をこなさなくちゃみたいになるわけ。じゃなくて、そのままの良太でいけば、そんな二人とも暗い顔するような問題ないんじゃない?」
さらにアスカがさも簡単そうに続けた。
「まあ、そういうのも、あり、ですよね。あの、パワスポの雰囲気そのままでって」
我に返った秋山が言った。
しばらく工藤は腕組みをして眉を顰めていたが、「まあ、そういうのが一番無難、だろうな」と工藤にしては珍しく何の反論もなく頷いた。
ただ。
あいつのことだ、割り切ってやるしかないと諦めているだけだろう。
良太の頑なな態度を思いやると、まるで東洋商事へ人身御供に差し出すような面持ちで、工藤は渋面にならざるを得なかった。
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