空はやっぱ青い50

back  next  top  Novels


 その夜、十時になると、良太は工藤に電話を入れた。
 東京は今昼頃のはずだ。
 意外にもコール三回で、工藤が出た。
「お疲れ様です。今、電話いいですか?」
「ああ、何だ」
 珍しく穏やかな声だ。
「東洋商事のミーティングで、ほぼ方向が決まりました」
 おそらく既に藤堂からも報告が行っているだろうと思いつつ、現実の三人のキャラを使ってドキュメンタリー風な自然な会話をメインに、佐々木のプランからドローンを使って東洋商事ビルの屋上、マンハッタン、セントラルパークなどを撮影して絡ませる、といった内容を良太はかいつまんで話した。
「こっちにいる間に、準備は整えておくつもりです。沢村のスケジュール次第ですが、七月のオールスターのオフ以外にも予備日を早めに決めてもらいます」
「焦らなくていいぞ」
「あ、はい。万が一のトラブルにも対応できるように、何か考えないと」
 アスリートは身体が資本だ。
 怪我なども考慮しておかないと、と良太は思う。
「沢村が万全であることが一番いいんですけど」
「お前もだ。くれぐれも事件なんかに首を突っ込むなよ」
「やめてくださいよ、千雪さんじゃあるまいし」
「地下鉄で事件に遭遇したらしいじゃないか」
 そんなこともニックは報告しているのか、と良太は思う。
 ま、当然か。
 確かに、良太が野次馬根性で何があったのか見ようとしたら、ニックに腕を引かれてその場を離れたのだった。
「や、近寄りませんよ、そんな」
「フン、ぽやんとした顔で眺めてると、事件に絡まれるぞ」
「誰がぽやんですか!」
 工藤は笑う。
「まあ、とにかく、肩の力を抜け」
「わかってますよ」
 最後は工藤の笑いで、電話は切れた。
 いつものようなブチっといきなりではなかったので、何となく名残惜しい気がして、良太はしばし携帯を持ったまま、ふッとため息をついた。
「何か、妙に気遣ってくれてるみたいじゃん」
 じんわりと良太の胸の奥が温かくなる。
 食事なんか、絶対取ってなさそうじゃん。
 笑ってごまかしやがって。
 会社だったのかな。
「工藤こそ忙し過ぎて、俺を気遣ってくれるより、自分を気遣えよ! いい年なんだから」
 良太はひとり口にして、シャワーを浴びに行く。
「あと一月切ったなあ」
 いつの間にか時間は過ぎている。
 きっとひと月なんてあっという間だ。
 いろいろきっちりやらないと。
「踏ん張りどころだぞ! 良太!」
 良太は決意も新たにして、鏡の中の自分にはっぱをかけた。

 


back  next  top  Novels