「まあ、良太のその勘が正しいとしてや、やっぱ被害者が何で殺されなあかんかったかいうんが問題やろな。どう見ても事故やない殺され方やったわけやから、犯人は被害者をどうしても殺さなあかん理由があったんや」
確かに、デビッドは五か所くらい刺されていたというから、事故ではないことはほぼ明らかだ。
「明確な殺意を持っていた人物が被害者の周辺にいたかくらいは警察も調べとるはずや。きょどったレイチェルの場合も結婚を邪魔されたくないいうんは動機といえるけど、そこまでの殺意につながるかどうか」
「はあ、そうですね」
いくら名探偵でも、海の向こうからこれだけの材料で犯人が分かるはずがない。
良太はため息をついた。
「いくら犯罪が限りないいうても、それで捜査打ち切りいうんはおもろないなあ。ほんでドラマの撮影続けるんか?」
「ええ、とりあえずベンの出演シーンを除いて撮影続けるらしいですけど、そのうちベンの代役探す話もあるらしくて」
それが良太としては残念なのだ。
「まあ、しゃあないわな、逮捕されてんし裁判どうなるかわかれへんからな。せえけど、良太は研修あるんやし、ベンのことばっか考えとるわけにいかんやろ」
千雪がそう言った時だった、いきなり千雪の背後から怒鳴り声が降ってきた。
「こそこそとお前は何をしとるんだ!」
と思ったら眉間に皺を寄せた工藤が画面の向こうから睨みつけている。
「うわ! そこ会社だったんですか!」
思わず画面から顔を話した良太は言った。
「人の耳元で怒鳴らんといてえな! 工藤さん」
千雪が振り返って文句を言った。
「事件なんかに首を突っ込むなと言ったはずだ!」
「わかってますって。ただちょっと気になったんで千雪さんに聞いただけじゃないですか」
良太は言い返したものの、妙な形で工藤の顔を見られたことに苦笑した。
「ニタニタ笑ってないで、とっとと寝ろ!」
ブチッ! といきなり画面が切れた。
良太は暗くなった画面を見ながら、またひとりで笑った。
「あとは裁判待つしかないのかな。ベンに不利な結果にならなきゃいいけどな」
いや、このままだとかなり不利なのではないか。
というより冤罪だろ。
事件に首を突っ込んでいるつもりはないが、やはり良太は考えないではいられなかった。
「ちぇ、現実は正義の味方とかヒーローは、このアメリカにもいないのかよ」
ぶつぶつ言いながら、良太はシャワーを浴びてベッドに入ったが、なかなか寝付けず、工藤が置いて行ったラム酒を少しグラスに注ぐと一息に飲み干した。
ドラマの撮影が再開された。
レイチェルがメインのシーンが続く。
「レイチェル、警察に事情聴取されたらしいけど、たいして聞かれなかったらしいよ」
どうやら事情通が知り合いらしく、今日も撮影の合間、内海がそんな情報を口にした。
すっきりした顔でレイチェルが演技に身が入っているのは、それでか。
良太はメイクを直してもらっているレイチェルをちらっと見た。
撮影が終わると件の恋人だろうスラっとしたハンサムガイがレイチェルを迎えに来ていた。
これも内海情報だが、恋人のジョシュはIT企業のCEOだという。
さほど興味もなかったのでちらっと見ただけで、良太はトイレに向かった。
寝付けなかったせいか、朝いつもより早かったせいか、思わぬ時間に良太は個室に飛び込んだ。
水を流して出ようとしたその時、「大丈夫なんだろうな」という緊張した声と共に誰かが入ってきた。
「あの女、適当に俺らをあしらいやがって」
楽しい会話ではない声を耳にして、良太は固まった。
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