藤堂にしてみれば、あり得ない失策だった。
直子に盗聴器をつけさせたことも、それより店に潜り込ませたこと自体、自分をぶん殴りたいくらい憤懣やるかたない思いが渦を巻く。
藤堂はアクセルを踏んでスピードを上げると、前を走っていた車を三台ほど追い抜いた。
ミラーの中の車が小さくなったところで走行車線に戻る。
「夜の高速を走るのは、焦っている時ばかりだな」
藤堂は一人呟いた。
一方、先に直子と男たちを乗せた車を追っていた啓から辻に連絡が入り、山道をしばらく行ったところにある小さな別荘に着いたことを知らせてきた。
「石尾不動産か、石尾の持ち物やな」
千雪が言った。
ネットでググり、そのあたりの画像でその建物を特定した。
「ええか、極力知られんようにせい。俺らが行くまで何かなければ動くな」
三人が中に入ったという啓に、辻は言った。
「こっちも、加藤から、盗聴した音声」
千雪はスピーカーにして再生した。
『ちょっとヒロ! 何で彼女までつれてったのよ!』
「清水美咲やな。ヒロは出水か」
『え………まさかさとみみたいなことしないわよね?!』
「電話しとんやな。さとみて、行方不明の?」
辻が言った。
『わかったわよ!』
音声はそこで切れていた。
気になる箇所だけ加藤は送ってきたようだ。
「ほんまにやつらシナリオ通りの展開しよったみたいやな」
「しかもどっかで見た三流ドラマ通りて、なんやね」
「あれやろ、昔見たドラマの内容が頭にあって、無意識にそれを手本にしてしもたってやつやないか」
せせら笑う辻に、千雪が言った。
「奴らがやったいうことは明白やけど、とにかく物証を押さえんことにはな」
千雪は少しイラついた声で、「京助、まだ着かんのか」と言った。
「うっせえよ、もうじき山道に入るとこだ!」
こっちもイラついて京助が喚く。
時刻は十一時を過ぎようとしている。
良太は要所要所で走っている位置を谷川にラインで送っていたが、GPSが動かなくなった最終位置をまた送った。
「そろそろ到着です」
良太は言った。
「おい、男が一人出てきて、裏山に上がってくて。二人であと追うてる」
辻が啓から連絡を受けてそう言った。
啓はノーグローのカメラを手に、男を追ったようだ。
良太は千雪ではないが、車が着くまで気が急いて、フロントガラスの向こうの闇を睨み付けていた。
「今、中にいるのは男一人なら、直ちゃんを助け出せるんじゃないですか?」
良太は勢い込んで言った。
「だな。とりかく、どこにいるのか、外から探ってからだ」
京助は建物の中を窺うために近づいている辻の仲間の一人からの連絡を待っていた。
「やつら、ヤバイもん持ってる可能性大やしな」
辻がボソリと付け加えた。
「ヤバイもん、って銃とかってことですか?」
逸る気持ちを良太は抑えきれない。
「出水は石尾の配下だからな。持ってても不思議はないさ」
京助がそれに答えた。
「気を付けるにこしたことはない」
その時千雪はまた加藤からの連絡を受け取った。
「いよいよ、みんなが焦り出したみたいやで」
千雪はタブレットで加藤から送られた音声をスピーカーで流した。
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