俺て、恋愛運とことん悪い思てたけど、ここまできたらお祓いでもしてもろた方がええんちゃう?
南青山にある広告代理店プラグインは、二年前、大手広告代理店英報堂のエリートだった河崎、藤堂の二人が興した会社で、河崎の元部下である三浦と浩輔を加えた四人がこのオフィスのメンバーだ。
代表は河崎だが、藤堂は、三階、四階にあるギャラリーの役員としても名を連ね、展覧会のプロデュースなどもこなす万能人間である。
浩輔は英報堂を辞めてから留学し、日本に帰国してからは一年半ほどジャスト・エージェンシーの佐々木の元でデザイナーをしていたが、結局、河崎の手元にまた引っ張られた。
佐々木は仕事絡みで河崎とも電話で話したり、外で出くわしたり、プラグインの上の階にあるギャラリーには行ったこともある。
だが、河崎の家のパーティに押しかけた時一度ちらっと寄ったことがあるくらいで、浩輔がプラグインに移ってもう二年にもなるのに、佐々木はオフィスをちゃんと訪れる機会がなかった。
「お待ちしてましたよ、相変わらず麗しくご登場ですね。やっと、佐々木さんをうちに迎えることができて、光栄ですよ」
軽くそんな台詞を吐く藤堂は通り一遍では推し量れないところがある曲者だ。
ただ、以前は英報堂のやつら、と佐々木もジャストエージェンシーの仲間とともに彼らを何かとライバル視していたものの、藤堂の場合、案外悪気はない男だとはわかってきた。
河崎は奥で三浦と何やら話し込んでいる。
藤堂はおいても、河崎はやはり未だに好きになれない。
何で浩輔は、あんなタラシで自分勝手で自己中な、いかにも悪い男なんかがええんや!
佐々木はやっぱり思ってしまう。
「これ、きんつばです。うちの近所では昔から有名なんですよ」
「おお、ありがとう。それじゃ日本茶だな。さ、さ、どうぞどうぞ、こちらへ」
菓子の入った袋を受け取ると、佐々木をソファセットの方に促し、藤堂はそそくさキッチンに向かう。
「あ、佐々木さん、お待たせしました」
ちょうど電話を終えた浩輔が慌ててやってきて、ぺこりと頭を下げる。
「すみません、わざわざ来てもらっちゃって」
「いや、春日さんに会社追い出されてから、俺、ずっとスケジュール空けられてるし」
「追い出されてって、またぁ、独立でしょ?」
浩輔は笑いながら軽く突っ込む。
「俺がぬるま湯やないと生きていけへんって、知ってるやろ? 世の中の右も左もわからんのに」
頬杖をついて佐々木は何の気なしに窓の外に目を向ける。
「はあ、わかります。あの会社、居心地いいですもんね」
「浩輔ちゃんが、ようも英報堂のエリートさんらと一緒にやってけてるなぁて、俺は不思議や」
そこへ藤堂がトレーに日本茶ときんつばを載せてやってきた。
「おもたせですみませんが、どうぞ」
「おおきに。あ、後先になりましたが、今度自分のオフィスを持つことになりましたので」
佐々木が名刺を差し出すと、藤堂は「これはご丁寧に」と大事そうに受け取って、にこにこと浩輔の隣に座る。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
