恋ってウソだろ?!18

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「母親が茶道師範でガキの頃からみっちりしこまれましたよって」
 佐々木は精一杯の笑顔で対抗してみせる。
 しかしこれだけの男にそんなこと言われたら、瞬く間に落ちるな。
 ただし、それは女なら、や。
 男がきれいとか言われて喜ぶと思うてるのか。
 いや、こんな男がゲイやなんて世の中の女が嘆くで。
 モデルなどにもゲイの知り合いはいるし、ゲイだからというわけではなく生憎口説かれる前に拒否ってたから、こんなシチュエーションは未経験なのだ。
「そっか、なるほど。俺はダメです。お茶席で足がしびれて、立ち上がったはいいが、すっ転んで恥かいたことがあって、トラウマですよ」
 確かに男は最初から足を崩してあぐらをかいている。
「それにしても、そろそろ名前を教えてくれてもええんやないですか?」
 デザートまで平らげると、もうあとがない、佐々木は聞きたかったことを男にぶつけた。
 男は車だからと、佐々木は昨夜の失敗に懲りて、今夜は酒を一適も口にしていなかった。
「だから、子供の頃からトモちゃんって呼ばれてたって、あなたの別れた奥さんと同じトモちゃんだって、言ったじゃないですか、夕べ」
「え……?」
 佐々木は言葉に詰まる。
 友香のことをどうしてこの男が知ってる?
「俺、そないなことまで話しましたか?」
「いや、まだ吹っ切れていないんだったらすみません。でも、そのトモちゃんを忘れさせてくれた人がいたんですよね? ただ、その人も去っていってしまったと……」
 男を凝視したまま、佐々木の思考は一瞬停止した。
「参ったな………そんなに酒に弱かったやなんて、独立早々一国一城の主なんか失格やわ。見ず知らずのあなたに」
 冷や汗が背中を伝うような気がした。
「安心して下さい。さらっと恋人がいないってことくらいで、大事な仕事に関係することなんか何も聞いたりしてませんから」
 男は優しく微笑んだ。
「それに、見ず知らずだからじゃないですか? 俺も、ガキの頃から好きだったヤツに振られたって、話しましたよね。その分だと覚えていないみたいだけど」
「あ、そう……なんですか」
 少しだけ、佐々木の中で気がかりが減った気がした。
「せぇけど、あなたは俺のこと、仕事場まで知っているのに、あなたのことはトモちゃんってだけって、やっぱり全然不公平やないですか。俺が名刺渡したんなら、あなたも名刺ください」
 佐々木はキッと男を睨み付けるように言った。
「実は名刺じゃないんですよ、あなたのことが知りたいと思って、手がかりを伝っていったらたまたま、わかったんです」
「はあ?」
「だからもし……あなたが俺のことを知りたいのなら、知る術はありますよ」
「判じ物みたいなこと言わんといて」
 男は爽やかな笑顔を向けた。
「判じ物って……シャーロック・ホームズとか? 会ったばかりの男が手先を使う仕事をしていたとか、嗅ぎ煙草を愛用していたとかフリーメイスンだとか当ててみせたっていうような」
「赤毛連盟ですか。俺はクック・ロビンの殺人事件の方が面白かったな」
「ビショップ・マーダー・ケースですか、ファイロ・ヴァンスも好きですよ。話が合いますね」
 ったくお見合いやないで……話が合うたって、やからなんやね……

 


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