見上げるとトモがバスタブの佐々木を覗き込んでいる。
「さっきお疲れのようだったし、やっぱり寝てた」
「う……悪い。あんまり居心地いいんでつい……すぐあがる」
バシャバシャと身体を起こした佐々木に、トモはクスクス笑う。
「急がなくていいから。でも風呂で寝ると溺れますよ」
寝ちまってたんか、俺! ってより恥ずかしいで! いくら男同士いうたって、やることやってるし、こういうんは……
トモがバスルームを出て行くと、佐々木は慌ててバスタブから上がり、置いてあった上等のバスローブを羽織る。
鏡に写る自分は何とも情けない顔をしていた。
「はあ……ええ年をした男が……なんやね……このザマ」
佐々木が部屋に戻ると、携帯で話していたトモが振り返り、英語で二言三言話してから電話を切った。
「仕事?」
英語も自在に扱うトモには海外とも取引があるのだろう。
「そう。俺のこと少しは気にしてくれる?」
「まあ、そうやな」
「ガッカリするかもよ? 俺のことわかったら」
「なんで?」
「いや、何となく。でも、そのうち、わかっちまうかも………」
トモは口ごもり、そして苦笑した。
佐々木はトモが、本当の自分を知られたくないんやろか、と思う。
「あ、すまんな、長湯してしもて…」
何となくぎこちなくなった空気をごまかすように、佐々木は言った。
「疲れを取ってもらうのが一番大事だからそれはいいけど、酔って寝ちゃダメですよ。あ、これ、結構いけますよ、よかったらどうぞ」
テーブルにはコニャックとグラスが用意されていた。
「何や……」
ほんまにいたれりつくせりや。
フロアスタンドとフットライトだけの明りが柔らかい。
ソファに腰を降ろしてコニャックをなめながら、窓越しに見えるのはやはり漆黒の空で、まるで異世界に迷い込んでしまったかのように思えてくる。
何で俺ら、ここにいて、何をやっているんや?
頭の隅に見え隠れするそんな疑問にはこの際耳を塞いで、とにかくこの空間、静寂が心地よい。
やがてバスルームから出てきたトモは、佐々木のグラスからちょっとコニャックを口にしただけで、そのまま佐々木の喉元に食らいついた。
さっきまでの紳士面からいきなり性急な勢いで抱き込まれて、佐々木は少しばかり躊躇したもののトモのキスは甘く、それに翻弄されているうちにバスローブもどこかに行ってしまっていた。
トモの指が佐々木の身体を這い、熱い唇が佐々木の身体をゆっくりと昂ぶらせる。
こんな風に自分の身体が誰かに操られるなんて、ついこないだまでの佐々木には思いもよらないことだ。
フライパンの上のバターのようにどろどろに溶かされた佐々木は、押し入ってくるトモに息をのんだのもつかの間、揺さぶられて喘ぎ、与えられる刺激に上ずった声を上げた。
意識を飛ばして、朝になるまでぐっすりと眠り込んでしまったらしく、佐々木はトモの厚い胸に抱かれたままベッドの中にいた。
身じろぎするとトモが佐々木を抱いている腕を引いて、優しくその指で佐々木の髪から首筋へと触れた。
「まだ、早いよ」
トモは佐々木の額から鼻へ、頬から唇へとキスを落とす。
重なり合った肌から互いの体温を感じている、そんな状況に、佐々木はひどく恥ずかしくなった。
まるで女の視点や……
問題なのはそれが異様に心地よ過ぎることだ。
参ったな………
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