オフィスに二日ほど居座った下柳と一緒に試行錯誤の末、超特急で上げたデータをスタジオに持って行くという強行軍で、CMが無事オンエアとなった十二月初頭から、佐々木のスケジュールは密になった。
週二日の茶道の稽古日にも久々母屋に顔を出し、佐々木自らも着物を着て茶を点てた。
以前にもまして母の指導はきつくて難儀だったものの、年明けのイベントに備えなくてはならなかった。
そうこうしているうちに、ローカルながら採算を度外視した大和屋のCMの反響が大きかったお陰で、ジャスト・エージェンシー経由で立て続けに仕事が入った。
しかも春日の言葉が予言したとおり、プラグインからは東洋商事関連の仕事の依頼を受けた。
「悪いな、先週も仕事でつぶれてしまったし」
週末は行けないと告げると、携帯の向こうでトモの声は残念がっていた。
今度は信州といっていた先週末に続いてこの週末も、東洋商事の仕事で急遽佐々木もニューヨークに行くことになり、またつぶれることになった。
「忙しければ、そうそう揺らぐこともないでしょ。よかったじゃない、佐々木さん」
「ああ、そう……やな」
自分らしくなく、言葉の歯切れが悪い。
「俺も携わっているプロジェクトのニューヨーク支社が立ち上げで、向こうと連絡取り合って平日は結構これでも働いているんだぜ。来週は俺、土日、また別の仕事で動けないし……」
「そうなんや……」
プロジェクト? 確か、藤堂さん、高橋何某は新しく会社を創るとか言ってなかったか? やはりトモはひょっとして高橋何某氏なのか?
「その次ってクリスマスだよな。絶対会いたい……何か予定入ってる?」
妙に子供っぽい気がするトモの言葉はそのまま自分の言葉だと、佐々木は思った。
「いや、今のところは何も」
「じゃあ、絶対! でもその前に、来週金曜とか遅くてもいいから、会えないか?」
「ええよ……わかった」
トモに会いたい……
携帯を切ってからも、心の底から溢れ出るような思いを佐々木は持て余していた。
今度こそ、その思いを否定することができなかった。
こんなにも会いたいと、こんなにも誰かを強く思ったことが、今まであったろうか。
「佐々木ちゃーん、どうしたのぉ? おっきい溜息!」
仕事中も、佐々木の幾度目かの溜息を聞きつけて、直子が聞いてきた。
「え、ああ、いきなり……急ぎの仕事ばっか次々入ってきたよって、ちょっと疲れたかな……と」
「それだけ?」
直子はいたずらっぽい笑みを浮かべて佐々木を見つめる。
「それだけやし、な、何やね………」
「ううん。別に」
そう言って、直子はパソコンの画面に向かう。
何か、気づいてるんやろか……ナオちゃん、勘鋭いからな……けど、今回ばかりはそうおいそれと言えるもんやないやろ。
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