「あーん、もう始まっちゃってるぅ!」
そこへバタバタとキッチンから直子が駆け込んできた。
『そうだ、肝心なことを忘れてました! 昨年に引き続き、三冠王、おめでとうございます!』
三冠王?
急速に佐々木は身体が冷えていくような思いがした。
『ありがとうございます』
『推定年棒五億円とか』
『推定です』
『聞くところによると、その程度のはした金、ぜーんぶいろんな慈善団体に寄付されているとか』
『一部です。それで生活しているんで』
テレビの画面では司会者との軽快なやりとりが続いている。
あかん、こいつはやばいで。
佐々木は茫然自失の状態で画面を見つめていた。
こいつは………あかん………。
「野球の選手って、割とぬぼーっとダサーって雰囲気の人、多いけど、やっぱ、沢村っちは別格でカッコいいよね」
唐突に直子の呟きが佐々木の耳に入ってくる。
「ナオちゃん、この人のファン? え、この人誰やって?」
佐々木はとりあえず直子に聞いてみた。
「そっか、やっぱ知らないんだ? 佐々木ちゃん、野球とか興味ないもんね~。関西タイガースの沢村智弘。名前くらい聞いたことない?」
「沢村智弘………やて……?!」
いくら世間を知らない佐々木であれ、名前だけは知っていた。
「いや、名前は………知ってるけど………確か、啓應で活躍して、鳴り物入りでプロ野球に入った逸材とか何とか、あれって何年前だっけ?」
「えらい! 佐々木ちゃんにしてみたら、それだけ知ってればOK。うんとね、今、二十七歳だから五年前くらい? 田園調布に家があって、幼稚舎から啓應大付属、高校で甲子園二回、しかも成績優秀! 六大学でも活躍して、啓應大からドラフト一位でパリーグのレッドスターズに入ったの。すぐに怪物といわれた頭角を現して、新人王に始まって首位打者二回。それから星川監督に請われて関西タイガースに移籍して去年に続いて三冠王。高校から大学まで超人気者で、マスコミも大騒ぎしたから本人はほとほと嫌気がさして、以来超マスコミ嫌いになったらしくて、ほんとテレビなんかあんまり出てくんなかったんだよ」
CMの間に、直子が簡潔明瞭に沢村のプロフィールを解説してくれた。
「すごい、よく知ってるね」
……………てか、こいつ、二十七歳やて?
「うん、ナオはね、野球選手としてファンなんだけど、何しろ昔はおっかけとかよりマスコミがすごくて。それで沢村、テレビ出演とか拒否だよ、拒否。そうすると今度は生意気だとかマスコミが叩くでしょ? 勝手よね~。でも三冠王で実力がものを言う人だから、マスコミ側も沢村っちに対しては今はいかにしてコメントをもらうかって感じで大変みたい。でもそう、パワスポだけは時々出てるよね。確か、良太ちゃんがプロデュースしてるスポーツ情報番組?」
「え………良太ちゃんが?」
そういえば大和屋のイベント出演リストにも名前が上がっていたではないか。
「でも、マスコミ嫌いだけど、確か、元カノって女子アナだったっけ」
「…………元カノ? へえ、マスコミ嫌いでもちゃっかりしてるんやな」
そしたら、ゲイいうわけではないのんか。
back next top Novels
