「バーカ、ただのでくの坊になってんなよっての」
幸也は軽くからかう。
「二年半もあれば、十分世の中もわかってきますよ。長谷川さんこそ、あちこちで泣かせてるんじゃないですか?」
「言ってくれるじゃねーか。そろそろわがままなご主人様のおもりに飽きてきたってとこだろ?」
「なかなかわがままも可愛いもんですよ」
コソコソではあるが、棘のある台詞の応酬に聞いていた武人は呆れた。
志央はどこ吹く風といった顔で、取り合わない。
「いい加減にせんか、お前ら。せっかく陵雲学園生徒会OBが顔を合わせたんだろうが」
武人が二人をいなす。
リビングの柱時計が四時を告げる頃、後片付けを済ませた撮影スタッフ、それに料理教室のスタッフが帰るのを見送って、戻ってきた奈央が四人の若者に声をかけた。
「みんな、こばらがすいたでしょ? ちょっと早いけどディナーを用意してるの。ユキちゃんもどうぞ」
「久しぶりだな~小母様の手料理」
リビングの大テーブルに、奈央がカップやカトラリーを用意していくのを、「手伝います」と七海が立った。
「ナナちゃん、えらいね~」
武人がからかう。
「下っ端は当然だ」
幸也がまたつっかかる。
「前菜はトマトとピーマンと生ハムのパスタよ」
「かあさん、俺、ゴルゴンゾーラのパスタがいい~」
「自分で作りなさい」
「ちぇ」
駄々をこねる志央を一喝して、奈央は七海に手伝わせてパスタを皿に取り分けた。
「小母様、まだ誰かいらっしゃる?」
七海が幸也の隣に二人分の皿を置いたのに幸也は気づいた。
「そうよ、懐かしい方がいらっしゃるの」
奈央がいたずらっぽく笑った時、チャイムが鳴った。
「あら、いらしたようね、ナナちゃん、ここお願い」
「はい」
いそいそと玄関に向かう奈央の背中に、「誰が来たのさ?」と志央が声をかける。
「本当にお久しぶり。みんな驚くわよ」
「突然押しかけて、すみません。まあ、すてきなお庭ですわね」
女性の声がリビングに聞こえたかと思うと、キュートなボブの柔らかい髪と明るい笑顔の美人を伴って奈央が現れた。
「志央、どなたかわかる?」
「え、ひょっとして、裕子センセ? びっくり、全然あんときのまんまだ~」
志央は思わず立ち上がる。
「あら~、お久しぶりね~、あなたもあのいたずらっ子のまんま大きくなったわね~志央ちゃん。覚えていてくださって光栄だわ」
「やだな~俺、もう全然大人ですよ~いたずらっ子はないでしょお、センセ」
「あら、だってあの時のカエル事件、未だにうちの教室では伝説なのよ、ね、勝っちゃん」
そういわれて裕子の影に隠れるように後ろに立っていた勝浩がそれを肯定するでもなく「お邪魔します」とおざなりな挨拶をした。
何しろ、まさかこういうこととは思ってもいなかった。
父親の出張中、ショッピングにつき合った母から懐かしい方からお誘いいただいたから、送って欲しいといわれて、武人から借りているミニで言われたとおりやってきたのが、ここだったのだ。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
