ACT 4
あくる朝のことである。
バイクで第三京浜をひたすら飛ばしているガタイの大きな男がいた。
だがごついデカさに似合わず名前は七海と可愛らしい。
「ちっ、また混んでら」
環八に入る前に混んでいるのを認めて、七海は愛車のZRX1200Rを駒沢通りに向けた。
時折、バイクを止めて携帯を鳴らしてみるが、相手は電源を切っているらしく出てくれない。
昨夜家電にも電話をしたが留守電になっているし、メッセージを何度か入れてもまだ反応はない。
五号線に入るととにかく飛ばして早稲田で降りる。
ひょっとして実家にいるのかもしれないと思ったものの、昨夜は既に真夜中だったので連絡も入れられず、朝になってから顰蹙を承知で七時を待って実家に電話を入れてみると、朝早く車で帰ったという。
「全く、せめてマナーモードくらいにしとけよ」
やがて七海を乗せたバイクは早稲田通りに入って少し減速する。
漸く目指す家にたどり着いたのは八時を過ぎていた。
ヘルメットを取ると、七海は離れの横に見覚えのあるブルーのミニを見つけてため息をつく。
「ほぼ同時に着いたんじゃないのか……」
脱力気味にドアをノックすると「はい」と勝浩の声がした。
「俺、七海。開けてくれ」
ドアはすぐ開いて、勝浩は息せき切って突っ立っている七海に驚いた。
「いったい、どうしたんだ?」
中に入って靴脱ぎに立ったまま、ドアを閉めると七海は勝浩をじっと見据えた。
「何度も携帯かけたんだぞ」
「あ、ああ、今さっき見たとこ、何かあったのか? わざわざこんな朝早くに」
「長谷川さんがさ、ウイーンに行っちまうって!」
「え?」
勝浩は七海を見つめる。
「今日午前の便で!」
「行っちまう……って」
勝浩は呆然と七海を見つめて反芻する。
「急に決めたらしい。夕べ遅くにタケさんから連絡あって、お前に言った方がいいんじゃないかって。自分が言っても勝浩、聞く耳持たないから、俺に伝えとけって」
勝浩は呆然とただ立っていた。
目の前が暗くなるとはよく言うが、実際そんな感じだったろう。
「来いよ!」
腕を掴んで連れ出そうとする七海に、勝浩は抵抗する。
「待てよ、どこ……行く……」
「空港に決まってるだろ?! 今会わなかったら、今度いつ会えるかわからねんだぞ!」
「けど……」
「意地張って、また同じこと繰り返すつもりかよ?」
今度いつ会えるかわからない。
また、同じことを―――――
急速に喪失感が勝浩を支配した。
東京に行ったらひょっとしたら会えるかもしれないなんて甘いことを考えて大学にあがってすぐだったろうか、幸也が留学したと確かあの時も志央に幸也から伝えられたことを七海から聞いた気がする。
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