ホールにはさまざまな国の人間たちがいた。
ルカはあまり顔を動かさず、視線だけで周囲をチェックした。
ルカとケインのボタンにも当然カメラが仕掛けられている。
アメリカ人らしき夫婦、フランス人のカップルだろうか、それからロシア語も聞こえる。
あれがド・コリニー伯爵だろう。
夫人は別の客と歓談している。
ルカはいつもより過敏に見てとった。
彼らより早くホールに入って、グラスを客人たちに渡しているデレクをルカはすぐに見つけた。
デレクの方も目だけでルカを認め、カウンターの中に戻っていった。
するとデレクを待っていたかのように、先ほどのメリッサという女がまた話しかけた。
遠目にもチャーミングな女だ。
ルカはそれを確かめてまた苛ついた。
そう言えば、逃亡したマルガレーテ・ルンゲという女が何処かにきっと潜んでいるはずだ。
笑って人を殺すような冷酷極まりない女だという。
どうしたらそんなふうに冷酷になれるのだろう。
今度の任務はひどく気が重かった。
向こうはどう接触してくるつもりだろう。
二人はそばを通ったスタッフに渡されたグラスを持ったまま、大勢の招待客の中で立ち尽くしていた。
「全く、急に来て、部屋を取れなんて言うんだから」
「だからさ、お前んちの名前なら、きっと部屋取れると思ったんだ」
さっきのフランス人の若いカップルがすぐそばにきて話している。
えらく若そうだけど、まさかティーンエージャー? じゃないよな、グラス持ってるし。
女はブルネットを品よくまとめ、上品な明るいブルーのドレスを着ていた。
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